糖質オフの考え方

栄養

「糖質制限」、今では知らない人はいない言葉となっていると思いますが、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

ある人は常識だといい、ある人は危険だという…
ネットで見ても、両極端な言説がならんでいるようです。
おそらく体質(遺伝と育った環境)の影響をうけるため、全員が同じではないからいろんな説が出ているように思えます。

正直なところ、私にも正しさを判定することはできないのですが、現在わかっている生化学学説での糖質の立ち位置を知り、自分の身体と糖質の付き合い方を探ることはできます。

何が危険で何が安全なのか、男性、女性、子供…それぞれの属性での違いなどを踏まえ、糖質オフについての考え方を共有できればと思います。

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“糖質”のやくわり

まず言葉の整理をしますが…

糖質 = 炭水化物 ー 食物繊維                 
      = ブドウ糖 + 糖類(甘い糖)+ 糖アルコール(キシリトール等)

という関係があります。

糖質=炭水化物ではないし、糖質の中には甘いものも甘くないものも含まれます。

糖質の中の前2者(ブドウ糖と糖類)は血糖値を上げやすいのに対し、糖アルコールは腸から吸収されにくく血糖値が上がりにくいという違いがあります。

血糖値が上がりやすい糖質 = ブドウ糖(でんぷん)、糖類
血糖値が上がりにくい糖質 = 糖アルコール

「糖質オフ」について考えるとき、問題にされるのは血糖値が上がりやすい方の糖です。
以下、記事中で「糖質」とは、ことわりのない限り血糖値が上がりやすい方の糖質のこととして記載します。

体内での糖質のやくわり

でんぷんや糖類は、体内では分解され“ブドウ糖(glucoseグルコース)”となります。
“血糖値”として測るのは、血液中のブドウ糖の濃度です。これは、健康成人ではおよそ80~100mg/dlくらいですね。

ブドウ糖の体内での役割として重要なものはふたつあります。

1  代謝されてエネルギーになる
2  血液の浸透圧を保つ

ブドウ糖をエネルギーにするためには、細胞内に取り込む必要があり、ブドウ糖を血管から細胞に取り込む際に使われるホルモンが “インスリン” です。
食事からの糖で血液内にブドウ糖が増えると、インスリンが働きブドウ糖を細胞の中へ移動させます、そうやって血液の中の糖の濃度(血糖値)はほぼ一定に保たれるという訳です

ちなみに糖尿病の病態とは、インスリンの量が足りなかったり、効き目が弱くなったりして、血液の糖濃度が高くなってくることです。

血液の浸透圧は、糖だけではありませんが、ナトリウム(Na)などのミネラル等と協同して、血液内と細胞外液や細胞内との水分バランスに関連します。
これらは全身の生理機能のキモになっている部分です。水分のバランスが崩れると、生理機能は正しく働くのが難しくなります。

血液内のブドウ糖はとても重要な物質なのです。

ブドウ糖が大切であるからこそ、食事に依存しないシステム

生理機能にとってブドウ糖はかなり重要な物質で、血糖はおよそ80~100mg/dlという狭い範囲に調節されています。

食事を十分に摂ることが難しかった太古の人類にとって、血糖を維持する事はとても重要なことで、血糖を上げるための機能を複数用意し、低血糖の危機に備えるよう進化しました。
食事という不安定なものに依存せず、血糖を一定に保っておけるシステムです。

血糖を上げる方法として、食事以外でブドウ糖を作り出す機能を「糖新生」と言い、主に、アミノ酸(たんぱく質)からブドウ糖が作られています
たんぱく質は身体を構成する要素ですので、食事にありつけなくても蓄えた分を使えばよく、都合の良い栄養素です。

Q : 血糖を一定に保つために身体に蓄える栄養がたんぱく質なら、摂取した糖はどこへ行くのでしょう?

答えは………「脂肪として貯めておく」です。次章でそのメカニズムを見てみます。

糖質と脂肪の残念な関係

人類の数百万年にわたる長い歴史で、食事から安定して糖質がとれるようになったのはごく最近です。
摂取した糖質は血糖の維持に使われて、余ることはあまりなかったと考えられます。
血糖を上げる機能が複数あるのに対し、血糖を下げる役割は“インスリン”というホルモン一択しかないので、需要がなかったことが伺えます。

インスリン

インスリンは膵臓で作られ血中に分泌するホルモンです。血糖を下げるホルモンとして有名ですが、実態は少し違います。

インスリンには様々な作用があり、そのうちのひとつが細胞内にブドウ糖を取り込む作用です。その結果として血糖値が下がります
また、脂肪の蓄積(分解の抑制)、水分の貯留、たんぱく質合成(同化作用)などもあり、身体を作るホルモンと言えます。

インスリンは細胞内に糖を取り込むことで、細胞のエネルギー産生にも関わっており、インスリンが全くなくなってしまうと、細胞はエネルギー不足になり生命の危機になってしまいます。

なので基本的には、インスリン分泌は少量一定値を保って身体の機能を支えています。これを基礎分泌と言います。
そして、食事から糖質が吸収されると、追加の分泌をして血糖の上昇を防いでいます。

食事から安定して糖が摂れない時代が長かったため、現代でもインスリン機能を上回るほどの高血糖に見舞われる事態を、身体は想定していません。

一時の高血糖には十分耐えられる身体も、慢性化した高血糖には、だんだん耐えられなくなっていきます。糖尿病として様々な不調が現れるということです。

糖質は貯めておけない

身体は高血糖を慢性化させないために、糖をすぐに消費するシステムを発達させています。

食事で摂った糖はすぐにインスリンによって細胞内に入り、エネルギーとして使われます。
そして使いきれず余った糖は、グリコーゲンという別の糖の形に変えられ少量は肝臓や筋肉に貯蔵されますが、それ以上余った分は中性脂肪に変えられ脂肪細胞に送られます。

つまり、エネルギーにならず余った糖は体脂肪になるのです。
インスリンの作用に“脂肪の蓄積”とあるのを思い出してください。

一方、食事で摂った脂肪は血糖値に影響がなく、インスリン分泌を促さないことが知られます。
また、消化された脂肪(脂肪酸)は小腸からリンパ管へ受動輸送(ポンプなどを使わない濃度勾配による移動)なので、常に必要分だけが吸収され、残りは腸内細菌の餌になるほかは排泄されます。

(ちなみに、糖質は能動輸送なので、身体が適応してしまえばどんどん吸収されるようになります)

なので、食事の脂肪は、体脂肪になりにくいのです

エネルギー代謝では糖質が一軍、脂肪は控え ~ 食べない系ダイエットがうまくいかない理由

細胞の多く(赤血球以外は全部)は、エネルギーとして糖だけではなく脂肪も代謝しています。
むしろ、脂肪から得られるエネルギーの方が莫大で効率のいいエネルギー源です。簡単にいうと、脂肪をエネルギー源として使う方が疲れにくいです。


ですが、そこに食事から摂った糖が十分にあると、細胞は糖を優先してエネルギーにします
糖の作るエネルギーは脂肪より効率が劣るため、疲れやすくすぐにおなかがすくエネルギー源と言えます。

逆に食事から糖質があまり入ってこないと、身体はまず蓄えたグリコーゲンを使い、その後は糖新生をしながら、エネルギーとして脂肪が使われだす順番です。

常に糖が十分あった生活をしていると、脂肪がエネルギーに使われるようになるまで数日~数週(月)かかったりします。(←これは糖質制限の失敗しやすさと関連しています)

食べない系ダイエットがうまくいかない理由はここにあります。


糖新生はアミノ酸(たんぱく質)が使われやすいため、食べない系ダイエットをすると、まず筋肉(や必要な組織)から痩せはじめ、脂肪は落ちてこないという現象が起こります。
筋肉は重量があるので、体重を減らすことはできますが…。

当サイトではくり返してますが、身体を構成するたんぱく質は超重要です。落ちては困ります。

筋肉等が減るとエネルギー消費も減りますし、食べないことで身体が飢餓に適応してエネルギー消費をさらに減らす反応(代謝が落ちる)もおきます

身体が絶食に適応して脂肪がエネルギーとして使われ始めるころには、代謝が落ちてエネルギーが必要ない状態になってしまうのです。

はじめ落ちたようにみえる脂肪も、だんだん落ちにくくなり、逆にためやすくなるという悪循環になります。
食事を再開した後のリバウンドは、元の筋肉量ではなくほぼ脂肪で増えるという、残念な結果になってしまいます。

一軍の糖質を身体は渇望してしまう

人が穀物の栽培を始めたのは約1万年前といいますが、飢えずに食べられるようになってからの歴史は、まだ数百年しかありません。
それ以前の人類は、食べられる時に食べ、身体に貯蓄し、食べられない間は貯めたものをエネルギーにして生きていました。

大切な糖は身体の組織から作り出し、一定の血糖値を保つように進化したのは、上に書いた通りです。


脳の画像研究では、糖質(甘くないものでも)を摂った時、人の脳は快楽物質(依存性薬物等)を摂った時と同じ部位が興奮すると分かっています。
人の脳は、糖をとてもおいしいと感じもっと欲しいと渇望するように、進化しているのです。

食事の糖が貴重だったからこそ、人の身体は糖を求めるようになったと考えられます。


身体は、必要な栄養素や水分を「欲しい」と感じ、食べると「満腹になる」ことで、摂取の調節をしていて、たんぱく質や脂質は満腹感をもたらし、食べだめが効きません。

しかし、糖質に関してのみは、満腹よりも渇望が勝ってしまい、調節が働かず食べだめができるのは、このような事情だからと考えられます。


食事の満腹感の秘密

脂肪はエネルギー源にもなりますが、一方で“必須脂肪酸”として身体の組織作り(新陳代謝)にも使われます。

脂肪の消化吸収は、糖に比べると時間もプロセスも長くかかります。これは、食べた後ゆっくり腸管を通過し、ゆっくり吸収されるということです。
また、消化管に入った脂質やたんぱく質は、“満腹感”をもたらすホルモンの分泌を促します
ゆっくり消化される脂肪は満腹感も長く続き、腹持ちがいいのです。

満腹を感じやすいという事は、食べ続けることを難しくします。つまり、脂肪とたんぱく質は食べすぎにくいのです。

一方糖質は、満腹感を感じにくく(満足はします)、渇望が強いため食べすぎが可能です。
食べると速やかに消化吸収され、速やかにインスリンの作用で血管内から細胞内に移ります。この間、数十分~1.2時間です。

追加のインスリン作用が強ければ強いほど(糖質をたくさん摂っていると)、反応で血糖が下がりすぎ、耐えがたい空腹感に襲われてしまうという罠まであります。(反応性低血糖:次稿参照

糖質は食べすぎた後でも、数時間でまたお腹がすいてしまう、満腹感の得られにくい栄養素です。

これらの事実から考えられること

箇条書きしてみます。

  • 糖質は重要な栄養素であるけど、体内で合成されるため、摂取できない期間を乗り切ることができる
  • 糖質はおいしく感じやすい(依存性物質と似た快感)
  • 糖質は、脂質やたんぱく質と違い「食べだめ・食べすぎ」がしやすい
  • 食べだめた糖質は、体脂肪になる
  • 体脂肪は優秀なエネルギー源だが、食事で糖を摂っているとエネルギー源になりにくい
  • 食事の脂肪は体脂肪になりにくい

実は、脂肪をエネルギー源にしている新生児では、血糖値は60~80mg/dlとかなり低いです。それで、人生の中で一番身体を大きく成長させ、脳の発達もする時期を過ごしています。

糖はこのくらいでも、脂肪が十分あればエネルギーは足りていると言えます。

糖新生をまかなうたんぱく質が不足しないように摂りつつ、糖質の摂取を控えるほうが、余分な体脂肪がたまりにくく、健康的な気がします。


次に、糖を多く摂る生活をしていることの悪影響を考えます
 ↓

糖質の悪影響な面
前稿(↓)の続きです。糖質は身体のエネルギーになる重要な物質ですが、摂取しすぎると脂肪になりやすいことを見てきました。また進化の経緯で、身体は糖質をコンスタントに過剰に摂取することが想定されていないため、過剰な糖質には思わ...

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