動物性食品は身体にわるい??:脂肪についての考察

セルフメンテナンス

今までの投稿で「動物性たんぱく質が必要だ」ということは理解していただけたでしょうか?
でも「動物性食品は身体にわるいんじゃないの?」と心配を聞くこともあります。その疑問について、考察してみたいと思います。

鍵は“脂肪の品質”です。

スポンサーリンク

動物性脂肪が冤罪で悪玉認定(1980年代)

動物性たんぱく質には動物性脂肪がつきものです。
たんぱく質ではなく、動物性脂肪が悪いものとされた過去があります。

肥満や心血管疾患の原因は?

1970~80年代は、アメリカでは肥満が社会問題化し、もともと死因として多かった心血管疾患の原因追及もされていた時代です。

その当時、「動物性脂肪(飽和脂肪酸)」「食事由来コレステロール」が肥満や心血管疾患の原因と考えられ、アメリカ政府主導で動物性脂肪を排除する運動がおこり、脂肪を減らした食事が推奨されました。

日本でもその頃から、「動物性脂肪(飽和脂肪酸)はいけない、植物性脂肪(不飽和脂肪酸)がよい」「脂肪は減らせれば減らすほどよい」と言われるようになり、「低脂肪食品=健康食」というイメージが作られ、今でも続いています。
その当時を生きてきた人の中には、脂肪=悪という感覚が残っていますね。

しかしその結果、アメリカ人の動物性脂肪摂取量は劇的に減ったにもかかわらず、肥満は劇的に増えてしまいました
肥満という病態から、脂肪悪玉説はイメージ的には受け入れられやすいのですが…、何かが間違っていたということです。

その後検討がすすみ、2010年代頃から動物性脂肪の見直しが始まりました。
食事性コレステロール悪玉説は否定され、食べるコレステロールと血中コレステロールの関連は乏しいと結論されました。血中コレステロールと動脈硬化の関連も怪しいとすら言われています(研究が進んでいるところ)。

それをうけて、厚生労働省も卵の摂取個数の制限を撤廃したことは、ちょっと話題になりました。

また、80年代に動物性脂肪悪玉説を世に広めたのは、米国の砂糖業界で政府高官と癒着があったことも暴露されています。
つまり、動物性脂肪悪玉説には科学的根拠は乏しく、政治活動(+経済活動)だった可能性が高いという訳です。

低脂肪食品の罠:うまみを補うために何を使う?

一度ついてしまった“イメージ”は簡単には払しょくされません。
いまだに、「低脂肪食品は健康によい」と喧伝されていますし、消費者もそれを良しとしています。
その問題点について考えてみます。


メーカーの気持ちになって、食品から動物性脂肪を抜いておいしい食品を作ることを考えてみましょう。

動物性たんぱく質と動物性脂肪は切り離せないので、肉類の使用は減ります。
動物性脂肪はバターを想像していただくとわかりますが、人の味覚にとって魅力的なうまみ成分で、肉類のアミノ酸もうまみ成分です。そのうまみを代替する必要があります。
天然の栄養素としては“糖質”、人工の栄養素としては“アミノ酸などの添加物”が開発されました。

実際に“低脂肪”をうたっている食品の原材料表示をみると、様々なものが添加されています。甘い必要のなさそうな食品にも、“糖分”が含まれていたりします。

もちろん、うまみを感じさせるための技術なので、それらの食品はとてもおいしくできています。「また欲しい」と思うように味付けされています。知っている人もいると思いますが、糖分や糖質には嗜癖性(脳の報酬系を刺激≒依存性)がありますし、人工の添加物の中にもその効果をもつものもあるかもしれません。

そして、糖質や人工の添加物は、動物性食材よりもはるかに安くあがります。健康に良さそうで安いのですから、人気がでるのも無理はないと思います。

その結果、動物性脂肪摂取量が減れば減るほど、おそらく、糖質摂取量や添加物摂取量が増えてしまったことが、先進国の食の問題であると考えられます。

途上国も、“安い”食品の普及によって、先進国と同様の問題の渦中にあると言えます。
実際、欧米先進国では肥満の増加は止まらないし、日本や中国など東アジア、その他の地域の途上国でも、肥満が社会問題化し始めています。特に、安い食品を買いがちな貧困層で顕著といわれます。

肥満や心血管疾患の原因はまだはっきりしていませんが、食事から脂肪分を抜こうと頑張ることは逆効果であると言えそうですし、「低脂肪食品」として売られている加工食品はやめた方がいい食品、と言えるでしょう。

では、脂肪は野放図に摂取してよい食品か?というと、そうでもないのが難しいところです。

脂肪について気をつけたいポイント

脂肪は身体に必要な栄養素

前稿で“必須アミノ酸”について書きましたが、身体には“必須脂肪酸”もあり、脂肪は不可欠な栄養素です
その意味でも、脂肪を食事からカットする意義は乏しいと言えます。

脂肪については、「飽和と不飽和」「トランス」「ω(オメガ)」など分類があり、身体への影響も違います。
簡単に言うと、脂肪は必須栄養素だけれど、食事として「いい脂肪と悪い脂肪」があるということです。
詳しく興味のある方は下記書籍など、どうぞ。

油の正しい選び方・摂り方: 最新油脂と健康の科学 (健康双書) | 奥山 治美 |本 | 通販 | Amazon
Amazonで奥山 治美の油の正しい選び方・摂り方: 最新油脂と健康の科学 (健康双書)。アマゾンならポイント還元本が多数。奥山 治美作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また油の正しい選び方・摂り方: 最新油脂と健康の科学 (健康双書)もアマゾン配送商品なら通常配送無料。
脂肪の歴史 (「食」の図書館) | ミシェル フィリポフ, 服部 千佳子 |本 | 通販 | Amazon
Amazonでミシェル フィリポフ, 服部 千佳子の脂肪の歴史 (「食」の図書館)。アマゾンならポイント還元本が多数。ミシェル フィリポフ, 服部 千佳子作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また脂肪の歴史 (「食」の図書館)もアマゾン配送商品なら通常配送無料。

食品としてよい脂肪と悪い脂肪の考え方

ポイントだけかいつまんで、箇条書きします。

中性脂肪とは、脂肪1分子中に脂肪酸3分子が含まれた構造をしています。○○油には△△脂肪酸が多い、という言い方になるのはそのためです。
(注:一般に常温で個体のものを「脂」、液体のものを「油」と表記します。まとめて「油脂」と言います)

  • 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸
    飽和と不飽和の違いは、酸化される余地が残っている(不飽和)か残っていないか、です。どちらの脂肪酸も身体に有用です。
    飽和脂肪酸の方が安定度が高く、常温で個体をとるものが多いです。(バター、ラード、ココナッツオイルなど)

    注意点は、安定度の低い不飽和脂肪酸は酸化されやすい、ということです。
    酸化した油の問題点は、体内で炎症反応を引き起こすことです。生活習慣病や肥満の病態が「慢性炎症」とされていることを考えると、酸化した油はもっとも避けた方がよい油脂と言えます。
    なので、不飽和脂肪酸の多い油脂は冷蔵庫保存を推奨します。また、悪くなった油(酸化した油)はにおいで判別できますので、ためらわずに捨てて、新鮮なものを使用しましょう(古くなった加工食品も同様で、油が臭くなっていたら捨てましょう)。
    また、油脂は加熱すると酸化反応が進みます。加熱料理には、飽和脂肪酸の多い油脂をつかい、使用後の使いまわしは避けた方がよいでしょう

  • ω○○
    ω(オメガ)とは、上記不飽和脂肪酸の酸化される余地のある化学結合の位置、による分類です。
    ω3、ω6、ω9などがあり、それぞれ身体に有用です。

    注意点は、やはり体内の「炎症」について、ω3とω6の比率が重要だという知見です。
    通常の食品には圧倒的にω6の脂肪酸が多いので、油脂としてはω6脂肪酸は控えめにし、ω3脂肪酸を積極的に摂りましょう、ということです。
    ω3脂肪酸を多く含む油脂には、シソ油、アマニ油、えごま油などがありますが、非常に酸化されやすいので必ず冷蔵庫保存、加熱料理には使わないという点に注意が必要です。また、魚に多いEPA、DHAもω3の仲間です。

    ω9脂肪酸を多く含む油脂はオリーブ油があります。
    オリーブ油は常温で固化することもあり、不飽和脂肪酸の中では安定度が高い油脂です。加熱料理に使いやすい、と言えます。

  • トランス脂肪酸
    「トランス」とは化学構造の形の一種で、体内の油脂には存在しない人工の構造です。
    トランス脂肪酸は、とても「炎症反応」を起こしやすい油脂です
    なので、トランス脂肪酸を含む油脂(人工的に加工されたものはほとんどその可能性がありますが、特に、マーガリン、ショートニング)はできるだけ摂らないようにしましょう。
    厚生労働省はアメリカに比べて日本ではトランス脂肪の使用量が少ないから、との理由で規制をおこなっていません、が、トランス脂肪酸はゼロ摂取でもいい油脂です。
    原材料表示などをよく見て、賢く避ける必要があります。

以上、「炎症」をおこしやすいかおこしにくいか、「酸化」されやすいかされにくいか、がポイントと言えます。

「炎症」をおこしにくく「酸化」されにくい油脂(飽和脂肪酸:動物性脂肪やココナッツオイル、ω9系不飽和脂肪酸:オリーブオイル)を加熱調理に、それと別にω3系不飽和脂肪酸(シソ油、アマニ油、えごま油、魚など)を酸化に注意しながら積極的に摂るとよいと思います。

有機溶媒としての脂肪:環境汚染、薬剤の影響

食品としての「良い悪い」の他に、脂肪の化学的性質を考慮する必要があると思います。
私はこれが、動物性食品は身体にわるいというイメージを作った原因と考えています。

ちょっといや~な話です。

化学を学んでいない方には意外かもしれませんが、“水”は地球上では特殊な物質です。水は電気を通す性質があり、これは化学的には極性のある分子(一つの分子の中に+部分と-部分がある)とされています。
この極性という性質は、同じように極性のある分子しか溶かすことができない、という性質です。

一方、油脂は極性のない分子の代表ですが、人の体内で使われる有機物のほとんどは、油脂同様に極性のない物質です。
つまり、これらは水に溶けない、なので、血液の中を流れるときにはたんぱく質などのキャリアと結合する必要があり、無限に血中に溶け込むことはできません。

この性質を考えると、体内に不必要だけど入り込んだ有機物、あるいは必要だけど多すぎた有機物の行方が気になります。
不必要な有機物の代表は、食品添加物や各種環境汚染となる化学物質です。
(必要だけど多すぎた物質は脂溶性ビタミン剤などです、多く飲んだ分は脂肪に溶けて適宜使われるので飲みだめができます)

生体はこれら不必要な化学物質(便宜上毒素と言ってみます)を、分解し排泄する機構をもっていますが、処理能力は一定なので、血中からあぶれた毒素は脂肪組織などに溶け込んで順番を待っているとイメージできます。
厄介な物質は地球上にたくさんあったため、生体にはそのくらいの余力はあるのです。

ここで問題になるのが、生体濃縮と自然には存在しなかったはずの有機物です。

補足
生物濃縮 - Wikipedia

生体濃縮は、海洋の有機水銀で有名な概念です。
妊娠した女性は、大型魚を食べる頻度・量は制限されていて、その理由が大型魚の中で有機水銀の生体濃縮が起きているということで、知っている人も多いと思います。

動物性脂肪(や脂肪分を含む肉類)を食べると、その脂肪に溶け込んでいた有機物も一緒に体内に入ります。
植物性脂肪には、残留農薬としての有機物はあり得ますが、生体濃縮はおきていません。

自然界に存在する物質が、自然界での濃縮でありうる量であれば、問題はないと考えられますが、自然に存在しない物質、ありえない量だとすると話は別です。
その点、動物性脂肪の方が生体濃縮があるため、影響が大きいと考えられます。


自然に存在しない有機物の代表は、環境汚染物質や各種薬剤です。
近年、土地の汚染以上に海洋の汚染が深刻です。自分の住んでいる地域だけの問題ではないことから、コントロールが難しいと言えます。
魚にはDHA・EPAなど良い面がたくさんあるのですが、積極的におすすめしにくいのが海洋汚染と生体濃縮の問題なのです。
また養殖魚では、下記の畜産と同じ餌や薬品の問題をはらんでいると言えます。

生体濃縮に関しては、動物が食べている餌の影響もありえます。
鶏、豚は雑食ですが、牛、羊、馬は本来草食で、草以外の、例えば穀物などは本来の食べ物ではありません。
ここで問題にしたいのは、食性のことではなく、穀物の残留農薬の方です。
動物に食べさせる草に除草剤を使うことはほぼないと思われますが、穀物栽培には除草剤はよく使われます。人用であれば残留農薬の規制があるのですが、家畜用には厳しい規制はありません。
牛や馬などの大型動物は穀物食による残留農薬の生体濃縮の影響をうけやすいと考えられます。

牛などの草食動物を草だけで育てたものは「グラスフェッド」と呼ばれています。ニュージーランド産は100%、オーストラリア産は90%以上と言われます。
国産牛でも、品種、牧場によってはグラスフェッドのものを作っているところはありますが、輸入品に比べると値段は高めなようです。


また、畜産という産業で使用される「薬品」も自然に存在しない有機物です。調べていただくとわかりますが、畜産では、ホルモン剤や抗生剤(抗菌剤)を使用することで、産業としての効率を上げられるとされています。

これらの薬品は、超短期的には人体に影響はない、として使用認可されているものですが、長期的に、生体濃縮の影響も考えると、私たちの身体の中で何か未知のトラブルをおこす可能性もあると思います。

参考

抗生剤の危険性は「薬剤耐性菌の増加」の観点から、ホルモン剤の危険性は「女性ホルモン感受性の疾患への影響」から議論されていますが、まだ全面禁止にはなっていません。

家畜の抗生物質投与中止を WHO、農家に勧告 - 日本経済新聞
【ジュネーブ=共同】世界保健機関(WHO)は7日、家畜の成長促進や疾病予防のための日常的な抗生物質(抗菌薬)の投与を中止するよう農家や食品業界に勧告した。乱用や過剰摂取により、人や動物に抗生物質が効かなくなる危険性が高まっていると警告している。抗生物質が効果を上げない薬剤耐性菌は世界的に拡大しており、対策を取らない場合...
米国産牛肉、「肥育ホルモン」の衝撃的な実態
【表現の変更について】初出時に「成長ホルモン」という表記をしていましたが、正確には「成長促進を目的とした肥育ホルモン剤」であり、誤解を生む恐れがありました。そこで本文中にある成長ホルモンの表記をすべ…
オーストラリア産の牛肉は安全と言えるのか
前回の記事を多くの人に読んでいただいたようで、うれしいと思いつつも、反面、この連載を受け持ったことの責任の大きさを今さらながら痛感している。そして、まず前回の訂正をさせていただきたい。初出時にはタイ…

こう考えると動物性脂肪はすべて危険な気がしてしまいますが、動物性たんぱく質は他に替えはありません。
バターやラードは無理に使わなくてもよいと思いますが、動物性たんぱく質(肉)を選ぶ際には、その動物がどのような環境で育てられたかに配慮するとよいと思います。

肉の選び方のポイント(日本に輸入されている国中心)
  • 肥育用ホルモン剤使用規制国:日本、EU、中国
  • 肥育用抗生物質使用規制国:EU

  • EUへの輸出が多い国(輸出用のため薬剤使用が少ない):オーストラリア、ニュージーランド、タイ

  • 「抗生物質不使用、ホルモン剤不使用、グラスフェッド等」と情報公開されているもの:
    国産豚肉・鶏肉の一部
    タイ産鶏肉の多く
    ニュージーランド産、オーストラリア産の牛肉・羊肉
    国産牛は抗生物質は使用されている可能性が高い(ホルモン剤は不使用)

  • アメリカ産の場合は、オーガニック認証のついたもの以外はこれらの薬剤を使われていると考えた方がよい(オーガニックのものは超高価!)

EU産が買えればいいのかもしれませんが、日本の輸入量は多くなく値段も高価です。
我が家では、牛肉羊肉はニュージーランド産か国産、豚肉鶏肉は国産、モンゴル産馬肉(他部位をEUに輸出してるもの)を買う事が多いです。ネット通販であれば、公開情報をみて選ぶのも難しくないと思います。

まとめ

散漫になってしまったので、まとめてみます。

普段、調理に使う油脂としては、加熱料理:動物性脂肪、オリーブオイル、ココナッツオイルなど固形油脂を、非加熱料理:ω3系油脂をお薦めします。
ココナッツオイルは無臭のものが使いやすいです。
それ以外の油脂は香りづけ程度の使用は構いません。
保管は酸化に気をつけます。

ω3系油脂の供給源として、魚も優秀ですが、毎日魚ばかりとならない方がよいかもしれません。

油脂の安全性として、酸化したもの(においの悪いもの、古いもの、加熱料理に使用済みのもの)は使わないこと、人工の加工をされた油脂(マーガリン、ショートニング)ではなく、動物性も植物性も加工度の低いものがよいでしょう。
植物性油脂であれば「低温圧搾法(コールドプレス法)」が一番加工度が低い製法です。

食肉はその産地、育てられ方、使用薬剤などの公開情報を吟味して選びましょう。そうやって選んだ肉についている動物性脂肪は、よい脂肪と言えます。

コメント