こちらの記事の続きです。
糖質はオフしたほうがよさそう…とは思うものの、糖質制限は危険だ、続かない、痩せないetc、様々な反対意見があります。
それらの懸念を解きほぐしながら、安全な糖質オフの導入を考えてみます。
糖質オフ(糖質制限)のよくある失敗パターン
糖質オフが“危険だ”と言われる背景には、この食事法が失敗しやすいことと関連していると思われます。
どちらかと言えば、食事法が間違ってるのではなく、移行の仕方がうまくない=それ以前の食事に合わせて丁寧に導入したほうがよい、なのですが…
以下に失敗のパターンを箇条書きしてみます。
- 体調が悪くなる
・ いきなり糖質を減らしすぎる
・ そもそも糖質を減らせる状態じゃない - 続けるのがむずかしい
・ 糖質を減らした料理を作ること、代替食品を探すのが面倒
・ 飽きる、糖質を熱望する
・ 食費がかさむ
・ 思ったように痩せない - 糖尿病の場合:主治医の理解、治療薬との兼ね合いが難しい
大きく分けると、“体調が悪化する”と“習慣にならない”と“糖尿病の場合の難しさ”があります。
ひとつづつ検討してみます。
糖尿病の場合はちょっと違うので、後程。(別稿で書く予定です)
体調が悪くなる場合
糖質オフするとは、代謝のパターンを変えることです。
血糖の維持には、アミノ酸からの糖新生が必要で、エネルギー産生には脂質を使います。
この変化に身体が追い付かないと、体調不良が現れます。
いきなり糖質オフで体調が悪化する理由
前々稿でも見た通り、人類数百万年の歴史では糖質はあまり食べられない食事で、私たちの身体はその環境=糖質オフに合った進化をしています。
なので糖質オフの食事は理にかなっているとしても、ここに注意点があります。
人の身体の“適応”という機序は、簡単に言えば“慣れる”ということです。
気持ちが慣れるのではなく、環境に最適な生理活動ができるように身体が慣れることです。
主に酵素をつかった代謝活動やそこから派生する生理活動の調節を、環境に合わせているということです。
なので、生まれて(離乳期)からずっと慣れ親しんだ食事を変化するには、身体が慣れるまでの時間をかける必要があります。
急激に環境(食べる食事の内容)を変えてしまうと、生理機能が追い付くまでの間、不調を感じやすくなります。
そして、身体が慣れるまでの必要期間は、それまでの食生活や遺伝傾向などによって個人差があります。
いきなり糖質全オフしても、「少ししんどいかな」くらいで耐える人もいれば、立ち直るのが難しいレベルまで体調が悪化する人もいます。
他人の糖質オフの体験談を完コピしても、うまくいかない人がいるのはこのような理由です。
糖質オフが合わない体質なのではなく、進め方が性急なのです。
必ず、自分の体調を見ながら、不安なら時間をかけてゆっくりと食事を変化させるほうがよいでしょう。
安全を期すためには、思い立ってすぐに糖質を全オフしないで、徐々に減らすことをお勧めします。
また、糖質全オフが正しいのか…も、議論の余地のあるところだと思います。
以下の章にも書いていますが、日本人の習慣的な食生活で育った人は、多少の糖質(穀物や野菜)を食べることに適応しているでしょう。
私は、糖質全オフでなければならないという考え方は、やや極端な気がしています。
そもそも糖質オフが難しい状態とは
今まで糖質を主のエネルギー源にしてきた人が、糖質オフするとどうなるでしょう?
細胞はエネルギーを作ろうとして、たんぱく質を分解し糖新生に励み、できた糖を使おうとします(参照:糖質オフの考え方)。
たんぱく質の余力(身体の組織への蓄え、食事量)のある人はあまり影響をうけませんが、余力のない人ほどエネルギー不足が顕著に現れます。
絶食(断食)で、男性より女性の方がヘロヘロになりやすいのは、このあたりの事情と考えられます。
また、脂肪をエネルギー源にするには、今までほとんど使っていなかった“脂質をエネルギー代謝回路に組みこむ作業”が必要になります。
既出ですが、細胞の行う生化学反応は、“酵素反応”によって行われます。
酵素はたんぱく質(アミノ酸)を材料に細胞の中で生合成される物質です。
環境にあわせて必要量が生合成されていますが、環境にあわせて変化するまでには少し時間がかかりますし、たんぱく質不足の人では不利となります。
よって、糖質オフによって、脂質をエネルギーとして十分使えるようになるまで、早い人では数日、遅い人では数ヵ月~年と差がでます。
前々稿に、胎児乳児は脂質代謝がメインと書きました。
なので、子供ほど若いほど、糖質オフへの適応は早いと考えられます。しかし、糖質ばっかりの食事だった場合は適応に時間がかかるでしょう。
今までの食事、年齢、体質によっても、適応までの時間は変わるということです。
また上に書いた通り、子供や女性(一部やせすぎの男性も)はたんぱく質の余力が少ないです。
この場合は、まずしっかりたんぱく質脂質を摂り、糖質を補いながら、糖新生に耐えられるだけのたんぱく質の蓄え、消化力を手に入れる必要があります。
以前も書きましたが、たんぱく質をしっかり消化吸収できて、十分な蓄えとなるまでには、時間がかかります。
低たんぱく食が長かった人、貧血が重度だった(特に)女性、摂食障害の既往の人、断食(ファスティング)ダイエットをしていた人などは、身体がたんぱく質の摂取に慣れていない上、蓄えも減っている可能性が高いです。
たんぱく質の余力のない段階では、糖質を減らすことより、まずたんぱく質摂取を増やす方が先決となります。
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まとめると、男性の一部には突然の糖質全オフに耐えられる人がいますが、年長者、女性、子供はそれでは体調を崩しやすくなります。
どの人にとっても安全な糖質オフの導入は、数週~数ヵ月(または年単位)かけてゆっくり変化する期間をとった方がよいと思います。
また、低たんぱく状態の人は、たんぱく質摂取を先に始め、十分たんぱく質が食べられるようになってから、糖質減らしを始めたほうがよいでしょう。
ごくまれな病態;糖質オフが危険な人
数年前、糖質制限が原因で命を落とした方の例が報道されました。イギリス人の20代の方でした。
報道ベースでの情報のみですが、その方は未診断の先天代謝異常で、たんぱく質の代謝経路に問題があり、たんぱく質代謝が滞り体内にアンモニアがたまる病態だったようです。
日本人で同じ疾患の患者さんを何人か見知っていますが、すべて小児期(乳幼児期)に診断され、代謝を助ける治療や根治治療としての生体肝移植をうけており、20代で未診断とは珍しい例だったろうと思われます。
少し専門的になりますが、代謝異常の疾患とは“代謝酵素の活性が低い病態”といえます。
代謝の活性がゼロまたはかなり低ければ、乳児など早い段階で不調が現れ、診断治療につながります。
しかし、代謝活性がやや低い程度だと、ちょっとの不調をごまかしごまかしで生活できてしまい、診断がされずに大人になっている可能性があります。
件の方も、代謝異常症の中では「軽症」だったようだ、と報道されていました。
なので、ここに問題があります。
未診断の代謝の問題は、どの人にもある可能性があります。また代謝活性の強さ弱さは、広義の体質と言えるものでもあります(糖質オフができないほどの方は、ごくごくまれですが)。
たんぱく質盛りや糖質オフによって不調を感じるかどうか、自分の身体をよくモニタリングすることが必要です。
また、急激に食事内容を変えず、ゆっくり変化させることで、リスクを減らすことができます。
人体の代謝反応は数千以上あり、事前にそのような体質かどうかすべてを知ることは現実的ではありません。
ただし、家族や親族に先天代謝異常と言われている人がいる場合や、子供の頃に原因不明の体調不良を繰り返していた方、子供の頃から特定の食品で体調を崩した経験のある方の場合は、特に食事内容の変化はゆっくり行い、不調があればためらわず受診した方がよいと思います。
糖質オフが続かない問題
さて次は、糖質オフを始めようとしてあたる壁の話です。
まず大切なのは、完璧を目指さないことです。糖質オフは習慣です。
試験のようにできた、できないで評価するものではありません。
全体として糖質オフできてる、そしてゆるゆると続けていけてるというところを目指すといいでしょう。
低糖質料理は面倒くさいのに満足が低い?
糖質オフ(糖質制限)レシピは巷にたくさんあり、どれもとてもおいしそうです。
多くが、今までの食事から“糖質を減らす工夫”にあふれています。
でも、これが罠です。
今までの食事=日本人の標準的食事とは、ご飯(またはそれに類する炭水化物)をメインに、少しのおかずを食べる食事です。
ここから糖質を減らそうとすると、どうなるか?
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食事にもの足りなさが出てしまいます。食事量が減ってしまう人もいます。
これは、食べない系ダイエットと同じで、数週間はノリノリでやれても、そのうちに物足りなさが我慢出来なくなってきたり、十分なエネルギーが作れなくなったりします。
一生懸命、手間をかけて低糖質で料理を作ってたのが、面倒な分かえってやる気もなくなってしまったらもったいないです。
それで、糖質リバウンドしたり、失敗したからもう意味がないとやめてしまったり……習慣にすることができないことがよくあります。
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なので、ここはコペルニクス的転換が必要で、逆説的ですが糖質を減らそうという意識をやめることが肝要です。
今まで私がたんぱく質を盛るように強調していたのは、この伏線です。
「糖質を減らそう」ではなく、「たんぱく質を増やそう」なら簡単なのです。
なぜなら、今までの食事からマイナスすると身体(脳)は満足度が下がりますが、増やせば満足度は下がりません。
たんぱく質や脂質は身体(脳)に“満腹感”という満足を与えてくれる栄養素で、腹持ちがいい(逆に糖質はすぐにおなかがすく)こともあります。
満腹感には、結果として糖質を減らしてくれるおまけもついてきます。
圧倒的に継続しやすくなります。
糖質オフで外食がむずかしい?
最近は低糖質食を出す店が増えてきましたが、確かに難しいところです。
この問題については、糖質オフの先達から、様々な考えが披露されています。
完璧をめざす必要はないので、自分に合いそうなものをまねるとよいでしょう。
- たまの外食(特に人と一緒)なら、我慢せず好きなものを食べる
月一とか頻度を決めて、ケーキやラーメンを楽しんでいる人もいます。 - 通常メニューでも糖質をオフしやすい店を選ぶ
低糖質メニューのある店の他、定食系の店なら「ご飯なし(半分)」と頼みやすいです。ファミレスもおかず単品が選べます。
また、フレンチや洋食の定食なら、バン(とデザート)を断れば、たいてい低糖質高たんぱくな満足度の高い食事ができます。 - 夜は飲み屋系
糖質のつまみや締めを頼まなければ、低糖質な食事ができます。
アルコールと糖質オフの考え方は、いろいろあるので、また後日書いてみたいと思います。 - コンビニ
流行にさといので、かなり糖質オフメニューが選びやすいです。
ご飯セットの弁当ではなく、おかず単独の物を選べます。
全体として、たんぱく質脂質が少なくならないように気を付ければ、食事の満足度もあがりますし、糖質による反応性低血糖も起こしにくくなります。
リバウンド?糖質を熱望してしまう…
これは、前章に書いたように、糖質オフを急ぎすぎたときに起きやすいです。
それまでの食事の適応により、たんぱく質や脂質を十分に消化できない状態で、糖質オフをしてしまうと、身体は満腹感を得られず、またエネルギー不足で糖質を熱望するようになります。
糖質は手っ取り早い栄養素ですが、満足の持続が短く、身体を作る要素ではないため、機能をあげてもくれません。
地道にゆっくり、たんぱく質脂質を消化吸収できるようになるまで、糖質オフをやりすぎないのがよいでしょう。
また、身体の適応とは別に、“脳”が食事の習慣にこだわってしまう場合があります。
しかし脳は、身体の適応よりは騙されやすい(思い込みが激しい)のが特徴です。うまく脳をその気にさせるとよいでしょう。
方法としては…
- 理屈を変えること
- 良い変化をみつけて“いい気分”になること
- たまに好きに食べる日をつくる
などがあります。
理屈を変えるとは、糖質多めの従来の食事は思い込み(ただの慣習)であったと脳に教えることです。
何か食べようと思ったときに、つい「主食は何にしよう?」と考えがちですが、「おかずは何にしよう?」と考えるほうが正しいのだという理屈や、糖質オフによって身体にはこんないいことがあるという理屈があり、そのことを意識して考えることで、理屈(思い込み)を変えることができます。
“いい気分”も馬鹿にできなくて、人の脳は気持ちいいと感じることをまたやりたくなる性質を持っています。たんぱく質の食事を食べて「おいしい」と感じることが大事で、なので、好きなおかずを食べるのが重要です。
また、食事に対して罪悪感を持つといい気分が萎えてしまうので、たくさん食べることや糖質(人によっては脂質)を食べることに罪悪感を感じないように、上に書いたように理屈を変えておくことが有効です。
それでも、一筋縄にはいかないものなので、たまには自分を甘やかす日をつくり、我慢をためないようにしていくとよいでしょう。
繰り返しますが、全体として、少しづつたんぱく質脂質を増やし、結果として糖質オフできて来ればよいのです。
いきなり完璧を目指さないのが大事なポイントです。
食費がかさむ?
たんぱく質のおかずは、炭水化物より割高なので、確かに食費はかさみます。
しかしそれは、最初だけです。
というのも、たんぱく質盛り糖質オフの食事に慣れると、腹持ちがとてもよくなります。
その結果、おやつを食べたいという欲求がなくなります。我慢が簡単になります。
考えてみると、肉100gで150~200円と比べて、某ポテトチップス1袋174円、某コーヒーショップの○ラペチーノは650円です。
どうでしょう?おやつの方が割高ではないでしょうか?
おやつ欲求が減ることで浮く金額の方が、大きいと思います。
少ない量、たまにのおやつで満足できるようになるので、何となく口さみしくてつまむようなものを惰性で買うこともなくなります。
上に書いた先達のように、きちんとつくられた推しおやつをたまに食べるくらいで、十分満足度の高い生活がおくれるようになります。
また、たんぱく質の材料は高いものである必要はありません。
肉は一般に脂の多いものは安くなります(高級霜降り和牛以外)。たんぱく質と同時に脂質も必要なので、安い肉で十分です。
卵もたんぱく質豊富で安価な食材です。プロテインをうまく組み合わせることもできます。
特に成長期の子供の場合は、卵やプロテインを積極的に使うことで、食費を抑えやすくなると思います。
糖質制限はダイエット?
糖質を食べすぎている人にとっては、糖質制限はダイエット(減量食)になりえるのは事実です。
ネット上では「糖質制限で痩せた」という体験談がたくさんあります。
しかし、誰もが減量するとは限りません。
糖質を減らすことで、インスリンの効果だった水分貯留がなくなり、はじめは水分が抜けます。なので、誰でもはじめは体重が減ります。
しかし、その後、脂質がエネルギーに代わるまでの期間は人それぞれ、たんぱく質をしっかり摂れているか摂れていないかでも、体調や体重は変化します。
普段低たんぱくな食事だった人の場合、たんぱく質を摂ることで、むしろ適正体重まで「増量」するケースもあります。
糖質さえとらなければ痩せられるわけではないので、目的を「減量」においてしまうと、モチベーションが下がってしまいます。
しかし、ここでもコペルニクス的転換で、目標を単なる減量にしなければ、体形的にとてもいい変化が起きます。
SNSの糖質制限界隈を見ていると、男性やたくさん食べられるの女性の場合は問題なくいい体形に近づいていく人が多いようですが、痩せている・小食の女性や無理なダイエット歴のある人の場合は、多くは一度体重体形とも太り、それから減ってくる人が多いようです。
私もそうだったので分かりますが、女性は月経や出産でたんぱく質が失われているにもかかわらず、野菜多め糖質多めの低たんぱく食を続けている人が多いことと関連していると思います。
恐らく、身体がたんぱく質を要求し(インスリンが使われる)、同化作用が強くなるのだと考えています。
たんぱく質が満たされてくると、体調は格段によくなり体力もついてきます。そのころには、食欲が落ち着いてそれまでのようには食べられなくなることも多いです。
きちんと続けていると、むくみがとれ身体も温まり、引き締まった体形になってきます。
たんぱく質は皮膚の再生にも使われるため、たるみも減ってきますし、顔もむくみにくいので、体重以上に痩せ見えするようになります。
糖質オフを、ダイエット(減量食)と考えず、健康食と考えることが、気持ちを折らずに続ける秘訣と思います。
続いて、実践編はこちら
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