各論編;常在微生物のよろこぶ環境づくり~免疫その⑥‐2

前項からの続きです。一番下に、コロナウイルス対策編を記載しました。

常在微生物によい環境とは、多様性にあふれた環境

よい環境とは、いわゆる”善玉菌”だけがいる環境ではなく、善玉も日和見も悪玉もみんな一緒に暮らしながら、全体として善玉がしっかり働ける環境というニュアンスです。
そもそも、善悪というのが人の勝手な解釈で、人にとって都合が善いか悪いかという基準でしかないのです。

また、健康な体の常在微生物は、微生物たちの多様性が大きいということが分かっています。
街のたとえをすると、多種多様な人(中にはワルも混ざっている)が安心して暮らせる街が理想で、ワルに席巻されて善人が駆逐された街や、逆に新興宗教などがはやり全員が同じ顔の善人になってしまう街も、ワルを倒そうとして一般市民もみんな倒された街も、どれも不健康な街ということです。(参考:超ざっくりとした免疫機能のしくみ~免疫その②

常在微生物は幼少期に母親や周囲の環境からもらうものです。
その基本的な構成は一生変化しにくいとされますが、日々の習慣により、持って生まれ育った微生物環境を良いものに維持することはできます。
アジアの街も、欧州の街も、アフリカの街も、南米の街も、太平洋の島の街も…街としての雰囲気はちがい、どれがいい悪いというものではないですし、ほかの街になろうとしてもなれませんが、それぞれ善い運営をすることは可能というです。

これは常在菌環境については、他人にとって「すごく良い」ものでも、自分に合うかどうかはわからない、という注意点です。

常在微生物のよろこぶ環境のつくり方・維持の仕方

以下、箇条書きしますが、これらが総合的にその人の微生物環境をつくるのであって、ひとつやったから完璧でもなければ、ひとつだめだから全部だめでもないので、できるところから取りくんでみてください。

  • 分娩様式(経膣分娩)
    ほとんどの人にとっては、今更どうにもならないのですが、これからお産をする人は知っておいてもいいことです。

    経膣分娩では、母親の膣や腸の微生物が新生児の皮膚~腸内までの常在微生物になるのに対し、帝王切開では母や医療者の皮膚の微生物が初めて出会う微生物となります。(汚いと思わないでくださいね、これが生きるということのリアルです)
    分娩様式の影響は、常在微生物の多様性に影響し、一生続くのではないかと考察されています。

    どうしても帝王切開じゃないと危険というケースもあるので、これを理由に帝王切開を拒否しないでほしいですが、「常在微生物が心配だ」という場合には、手段があります。
    帝王切開の際に、膣内にガーセを入れ、生まれた赤ちゃんをそのガーゼで拭くという手段です。
    日本では、未熟児医療の現場で、研究的にこの方法が行われていると聞きますが、一般の分娩ではまだないようです(’19末現在)。未熟児医療で結果(よいエビデンス)が出れば、一般の帝王切開でも適用されると思います。
    とはいえ、一般の成熟児の帝王切開でも、希望すればやってもらえるケースはあると思いますので、予定帝王切開の方は医師に提案してみたらいいと思います。頭の柔らかい医師であれば、検討してくれると思います。
    (産科は頭の固いおじいちゃん医師にかかるのは、いろんな意味でリスクが高いです!)

  • 母乳栄養
    母乳も、無菌と考えられていたけど実は違った、もののひとつです。母乳からもらう菌も赤ちゃんの腸内細菌の組成に影響があります。
    以前より、母乳栄養児は下痢をしにくいとか感染に強いとか言われていましたが、その理由のひとつに、この菌の影響があるのかもしれません。
    ただし、母乳栄養は完母である必要はないです。私は、赤ちゃんの栄養的にはミルクにもメリットがあるので、むしろ混合を薦めています。
  • きょうだい・ペットと同居
    アレルギー臨床の場で、きょうだい(特に兄)のいる子やペットのいる家庭の子は、アレルギーになりにくいことが知られていました。
    その理由が、兄やペットから常在菌をたくさんもらえる(多様性があがる)からではないかと言われています。

    赤ちゃんが何でも物をなめてしまうのも、微生物の多様性に役立つと考えられます。下にも書きますが、家の中は消毒しすぎず一般的な範囲で”きれい”を保つだけで十分です。
    感染性の疾患にかかっている家族がいるときだけ気をつければよいでしょう。
  • 土いじり
    土壌中の微生物に触れることも、多様性のアップが期待されます。無農薬野菜についている土などもよいと思います。
    砂場の土は、人工的に配合されていたりもするので、効果がないかもです。
    おすすめの土は、植物が元気に育ち、微生物や虫が共生している土です。ただし、日本の自然の土壌には破傷風菌がいます。触ったり飲んだりしても大丈夫です(常在菌万歳!)が、傷口からは感染します。4種混合ワクチンは忘れずに打ちましょう
  • 食べ物
    腸内微生物を善玉優位にたもつ上で、もっとも大切な要素です。

    一般的に悪玉菌は糖質が大好きです。というか、糖質が好きな菌が悪玉(人の身体に都合が悪い)なのでしょう。カンジダなどの真菌は日和見菌ですが、糖質が多いと増えに増えて善玉菌を圧迫し問題をおこします(悪玉化してしまう)。
    悪玉菌は免疫細胞との関係性があまり良くないので、ある程度以上増えると免疫反応がおきやすくなったり(アレルギーや過敏症)、腸の蠕動運動に影響を及ぼしたり(下痢や便秘)します。
    色んな意味で、糖質は控えるにこしたことはありません

    一方、善玉菌の好物は食物繊維(水溶性)です。水溶性食物繊維は一般的にぬるぬるした食材に多いです。野菜、海草、豆、果物などです。イヌリンやデキストリンなどもその仲間です。
    これらを積極的に食べてほしいのですが、注意点もあります。
    増やすと善玉菌が喜ぶのですが、今までの食事での菌叢から変化するとき、菌たちがちょっとわちゃわちゃすることもあります。おならがふえたり、下痢・便秘したりです。
    なので、体調(菌叢)と相談しながら、食事の変化は少しづつ行うことをお薦めします。

    発酵食品は以前にも書きましたが、常在菌として生着することはないと言われます。
    が、良き旅行者として、腸内の善玉菌の味方になります。なので、習慣化することが重要です。
    腸内微生物は多様性がある方が健康なので、一種類ではなくいろんな種類のものを食べると良いと思います。納豆、ヨーグルト、塩こうじ、甘酒、味噌、醤油、漬物…などです。
    ○○菌配合といったブランド菌である必要はありませんが、添加物でうまみをごまかした製品は発酵や菌量が不十分と考えられるので、”本物”を選ぶようにしましょう
    加熱調理すると菌は死んでしまいますが、善玉菌の亡骸は善玉菌のえさになるので、生にこだわらなくて大丈夫です。

    食物繊維も発酵食品も、人によって合う合わないが分かれます。他人のおすすめではなく、自分にとってのベストを探してみてください

  • 喫煙・口臭対策
    喫煙で口腔内、気道内の常在微生物が変化し、善玉が減り悪玉が増えると考えられます。結果、口臭や歯周病が悪化しやすくなります。できれば、”禁煙”がんばってみてほしいところです。

    口臭・歯周病対策としてはほかに、食事回数をしぼる・間食をしない(唾液によって悪玉菌繁殖を抑える)、悪玉菌の好物(糖質・特に砂糖)を控える、朝の歯磨き、歯間ブラシや歯周ポケットをきれいにするグッズなどたくさんあります。
    また、歯磨き剤やうがい薬に“抗菌成分”の入ったものは使わないことが大事です。うがい薬の中には、善玉菌製剤(一度も虫歯になったことのない人の常在菌と同じ善玉菌)もありますので、色んな方法を組みあわせて試してみてください

  • 入浴・シャワー
    洗わなすぎより洗いすぎが問題になります。
    皮膚の微生物は毛穴や角質内にすみ、皮脂や汗を分解しているので、ピーリングや洗いすぎで角質や皮脂が少なくなると、常在微生物が住みにくくなり、病原菌などの侵入を許すことになってしまいます。
    また、皮脂を落としすぎると、身体が抵抗して皮脂の分泌を増やすともいわれます。
    思春期の人で皮脂が気になって…という場合も、石鹸分を使うのは1日2回までくらいにして、それ以外のこと(抗菌成分を使わない、糖質を食べすぎないなど)を頑張った方が良いと思います。
    思春期以降の大人は、毎日石鹸分を使わなくても、お湯だけでも汚れは落とせます。思い切って石鹸分なしに切りかえてもいいですが、普通のシャンプーから湯シャンに切りかえた人が頭がさっぱり感じるまで数ヵ月~半年くらいかかるそうなので、常在微生物が適応するまでは、しばらくかかる覚悟をした方がいいと思います。

    私がここで”石鹸”と書いているのは意味があって、液体の洗浄剤(シャンプーなど)に使われている合成の界面活性剤が気になっています。石鹸も界面活性作用はありますが、合成のものほど強力ではありません。
    界面活性とは、脂溶性のものと水溶性のものを溶けやすくする作用のことで、皮脂等の汚れを水溶性にして洗い流すことができます。よさそうな効果に見えますが、裏をかえせば、皮脂だけではなく皮膚(細胞)も脂肪に親和的なので、界面活性剤は皮膚に残りやすいと言えます。
    そこに異物が残っていれば、それを分解しようとした細菌たちが増えてきます。それが善玉か悪玉かは置いておいても、菌が増えバランスが崩れることがわかります。
    私も、一般的なシャンプーを使っていたころは、頭が匂ったりかゆくなったりがありましたが、界面活性作用が強くない製品にかえた今では、何日か洗わなくてもかゆくなりません。

    若くて代謝が活発なうちは、毎日シャンプー・石鹸も仕方ないかと思いますが、ある程度大人になったら洗いすぎに気を付けた方が、皮膚の健康度は上がると思います。
    また、新生児は別です。新生児は常在微生物の生着がまだなので、皮膚老廃物の分解が追いつかず湿疹のできやすい状態といわれます。1日1回は石鹸分を使って洗い、皮脂が取れすぎるならワセリン(油脂性の保湿剤)を薄く塗ることをお薦めします。
  • 抗生物質・抗菌グッズ
    上に書いてきた菌のよろこぶ環境づくりの努力が、一瞬にして無に帰す可能性があるのが、抗菌・殺菌成分です。
    抗生物質は1920年代に発見され1940年代から一般に使われ始めた「人類最大の発明品のひとつ」かも知れません。抗生物質のおかげで、それまでは助かる見込みのなかった疾患が治療可能になりました。
    ただし、その恩恵の裏で大きな代償を払うことになったのが、耐性菌問題とこの常在微生物問題だと思います。

    耐性菌問題については、ここでは詳しくふれませんが、常在微生物問題について続けます。

    常在微生物は抗生物質1回の投与で壊滅的ダメージをうけるということが、わかってきました。おそらく数ヵ月以内には、“壊滅”からは立ち直ると思われますが、本当の意味での“それ以前”には戻れないと言われます。
    日本人(世界中の人も)は生まれてから一度も抗生物質を使ったことのない人はほとんどいないので、この情報はすごく残念なわけですが…
    ただ、本当に壊滅するのか、立ち直る方法があるのかなどは、今まだ研究段階ですので、悲観せず、この項で書いているようなできることを、粛々と続けていけばよいと思います。


    抗生物質は処方する医師に主導権があるので、なかなか自己管理が難しいのですが、常在微生物にダメージを与えるもう一つの大きな問題が「抗菌グッズ・消毒薬」です。

    抗菌グッズは、薄い殺菌成分が入っているというものがほとんどで、病原菌を抑える効果はほとんど期待できない代わりに、薄い中途半端な薬剤成分のおかげで“薬剤耐性菌”の発生が問題になります。その上、常在菌にもダメージを与えてしまいます。
    (MRSAなどの耐性菌は、今では院内感染より、入院患者さんが最初から常在菌としてもっている「持ち込み型」の方が多いです、常在菌化した耐性菌がいると、当然その後の細菌感染の治療が難しくなります)
    「抗菌」「殺菌」と書いてある製品は、使う価値がありません

    では、病院で消毒薬(強力な殺菌剤ですね)を使うのはおかしいことでしょうか?

    病院は、そもそも「病原菌感染症にかかった人」がいる場です。それを他の人にうつさないことが求められるので、リスクとベネフィットを比べて消毒薬のベネフィットが優りますし、法的にも消毒薬の使用が求められる場なので、必要悪で使うということです。
    ただし病院も、耐性菌問題や常在微生物の知見などが積みあがっていくと、今ある消毒の仕方が変わる可能性もあります。私は個人的には、病院は少しやりすぎと思えますし。

    健康な人が暮らす一般家庭は、病原菌が蔓延する環境ではありません。
    消毒のメリットは常在微生物を痛めるというデメリットに優りません。殺菌には、日光を使う方法もあります。消毒を使うのは、食器など十分に水で洗い流せるもの、直接肌に触れないものなど、限定的にしましょう。
    きれいすぎ”はかえって、免疫力や健康をそこなうのです。


    <抗菌グッズ・消毒薬の代わりに使えるもの>
    におい問題など、抗菌したい場面におすすめできるグッズが実はあります。
    菌を殺す代わりに、常在菌をたすける方向で、病原菌やにおい菌を抑える製品です。
    言ってみれば、「菌をもって菌を制す」製品です。

    私の家で使っているのは、バチルス菌系の製品です。
    置き型タイプの消臭剤、洗濯用洗剤(食器も洗える、入浴剤にもなる)、水槽の水の浄化剤などたくさんの種類があります。
    バチルス菌は、土壌の常在菌で、土地や水の有機物の分解に優れている菌です。家庭内ででる汚れやにおい物質は有機物なので、うまく分解してくれるというわけです。自然の土や水にいるもの(と同じ菌を培養したもの)なので、口に入っても肌に触れても安全です。猫と一緒に暮らしているので、家じゅうどこに使っても安全な製品はありがたいです。

    気になる使用感は…
    置き型消臭剤を車に置いたら、シーズン初めのエアコン臭が全くないばかりか、思わず深呼吸をしてしまうくらいさわやかな風が出てきておどろきました。
    洗剤は重曹系のものと併用していますが(汚れ落としには菌の分解力だけでは足りない感じです)、部屋干し臭はまったくないし、洗濯機のにおいもなくなり、白衣装が長くしまっても黄ばまなくなりました。
    量販されているものよりは、高くつきますが、長い目でみたらむしろ得だと思います。

コロナウイルスに対する家庭対策

最後になりましたが、コロナウイルス対策を考えます。
家庭内では、持ち込まれたウイルスの接触感染を防ぐことが求められます。
そこで、手洗いが重要なわけですが、もうわかりますね、アルコールより石鹸です。
コロナウイルスは石鹸で不活化するウイルスですので、アルコールは常在菌へのダメージもあるし、石鹸一択です。抗菌成分入りのハンドソープは多いですが、抗菌成分はない方がいいです(上参照)。
室内のアルコール消毒も、ドアノブ、スマホなど限定し、部屋中消毒することのないように気をつけてください。

ウイルスが手のひらについても常在菌が守っていれば侵入はできません(粘膜を触らないように気をつけましょう)。
くっついているだけなので、水で流すだけでも効果はあります。石鹸がないからと放置するよりは、水でいいのでまめに洗う方がよいでしょう。
外でもアルコール使用の必要はほとんどないということです。

ちなみに、巷で出まわっている「正しい手洗いの仕方」ですが、あれは医療機関で院内感染予防のため、手術や手技の前にする手洗い法です。常在菌まで落としきる(実際には落としきれないけど)ことを目的にしている方法なので、触ったウイルスを落とすためならもっと軽くて大丈夫です。
「きちんと」洗えないから洗わないよりは、手早くでもいいからまめに洗う方が、接触感染予防の目的にはかなうと思います。

石鹸でも、お湯でもたくさん洗うと皮脂が落ちてしまい、常在菌が困ります。
皮脂が落ちすぎたなと思うなら、ワセリンなどの油脂性の保湿剤を薄く塗ることをお薦めします。

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