超ざっくりとした免疫機能のしくみ~免疫その②

免疫力を上げる(下げない)ために、どうすればいいのかを考える下地として、免疫機能のしくみについて書いてみます。

「自然免疫」と「獲得免疫」

免疫の主役は、白血球達だということはよく知られていると思います。
具体的にいうと、リンパ球、好中球、好酸球、単球などと言われる細胞で、血液やリンパ節の中などにいます。
好中球は細菌感染の時に増え、好酸球は寄生虫感染の時などに増えたりします。
リンパ球には、Tリンパ球とBリンパ球などという種類があります。
それぞれの細胞に役割、持ち場があり、共同して身体を守っています。

これらの白血球達は、「自然免疫」と「獲得免疫」という2種類のオペレーションで働きます。
人の身体を城に例えると、「自然免疫」は、城を守るため巡回している警察官による不審者への職質、攻撃、「獲得免疫」は、城に入ろうとする指名手配犯を攻撃する行動となります。

「自然免疫」はTリンパ球などが担いますが、不審者を見つけると、敵かどうかすばやくチェックして、「敵」と判定すると身体に警告信号を発し、敵を攻撃します。
警告信号を聞いて、他の白血球達も集まってきまて、さらに警告を発します。
城は厳戒態勢になります。
そして、不審者をプロファイリングし(どんな特徴のやつかを特定し指名手配書にのせる)、その不審者グループ専用の武器を開発します。これが「獲得免疫」です。

この例えで、不審者とは身体に初めて(または久しぶりに)入ってくる微生物で、警告信号はサイトカインと呼ばれる物質で、厳戒態勢とは炎症反応です。
武器をつくる役割はBリンパ球で、武器とは”抗体”と呼ばれるたんぱく質です。この武器はとても強力で、一度指名手配書に載ってしまえば、ほとんど完璧にその微生物を退けることもできます。
この他に白血球には、プロファイリング斑や倒された不審者や感化されて寝返った市民(細胞)の亡骸を処理する斑などもあり、協力して城を守っています。

この経過で分かる通り、自然免疫の機能と獲得免疫の機能にはタイムラグがあります。抗体が作られるまで、およそ1~3週間くらい(抗体の種類によって違う)はかかります。

免疫のシステムが「不審者」とみなすのは、侵入した微生物だけではありません


感染した細胞やがん細胞など細胞としての機能を果たせなくなった細胞や自分以外に由来するたんぱく質(食べたものや触れたもの)も、対象になります。
また、アレルギーや自己免疫疾患は、何らかの機序で、白血球たちが自己と非自己の区別に混乱したか、反応が強くなりすぎ押さえが効かない状態になっているためと、考えられます。
生活習慣病の多くや肥満も、慢性炎症という病態があり、免疫システムが関わっていると言われます。

白血球たちの使う武器:サイトカイン、活性酸素、抗体

  • サイトカイン
    サイトカインとはサイトcyto=細胞、カインkine=化学物質という意味で、細胞が分泌する生理活性物質の総称です。
    白血球たちは、様々なサイトカインを放出し、お互いを活性化したり抑制したりと、複雑にバランスをとりながら、細菌やウイルスに寄生された細胞などを攻撃します。

  • 活性酸素
    自然免疫では、サイトカインの他に白血球から活性酸素が放出され、侵入してきた微生物を攻撃します。
    活性酸素はいわずと知れた毒性物質で、敵だけではなく自分の細胞にも、同じように襲いかかってきます。

  • 抗体
    獲得免疫によって作られる抗体は、その微生物特異的にくっついて、細菌やウイルスの目印となり、白血球による効率的な攻撃をもたらします。
    予防接種によって、指名手配書に書き込んでおけば、その微生物が侵入を試みた段階で阻止されたり、侵入したとしても大事になる前に検挙できたりします。

これら武器が使われた時、身体では「炎症」という状態になります。炎症(発熱、腫れ、痛みなど)は、白血球が集まってきて、微生物などを攻撃している証拠になります。
熱も攻撃の一種で、侵入者たちが細胞分裂など生命活動を行うときの酵素反応を起こしにくい温度にする効果と考えられています。

常在微生物は仲間

城(身体)の外側を見てみましょう。
人の身体の表面(皮膚の他、腸内、呼吸器内、眼球なども表面です、ちくわのイメージです)にはたくさんの微生物が住んでいます。多くは細菌です。
最近の研究で、人の細胞60兆個よりも多い100兆個(1万種類)もいるとわかってきました。人の生理機能だと思われていたことが、実は菌の仕事だったということも発見されてきています。

この細菌たちは、城に不審者や敵が入らないように、街を作って壁になってくれています。
また、警察官(リンパ球)たちの訓練にも関わったり、悪いやつの攻撃に加わることもあります。免疫細胞たちはこの協力者なしには、十分働けないほど大事な役割を担っています。

腸内の常在微生物は免疫の訓練に重要で、”悪い”微生物だけに免疫が反応するように教え、仲間の微生物(や消化されて吸収されるたんぱく質)には攻撃が向かないようにさせます[免疫寛容]。
この訓練により、リンパ球の中には、免疫をおさえる(炎症をおさえる)役割のものもできてきます。

微生物たちの街は医学的にはフローラ(叢:くさむら)と呼ばれているように、それぞれの菌たちが縄張りをもって住んでいるイメージです。
縄張りは、乳幼児期にきまると言われており、その後、初めて入ってくる微生物には居場所がなく、居座ることができません、街への旅行者のような関係になります。
また、住んでいる菌はすべてがよい菌ではなく、よい菌、ふつうの菌、悪い菌が混在しているのが普通です。

よい菌とは、腸内では免疫の教育のほか、消化を助けたり(食物の分解やビタミンの産生)細胞の栄養を助けたり、皮膚では、免疫の教育の他、皮脂や汗などの分泌物を分解し、皮膚を守るバリアをつくりだしたり、呼吸器でも同様で、微生物は免疫を教育し、細胞が必要な栄養を作り出したりします。

悪い菌は、数が増えると病気を引き起こす、病原菌と呼ばれる菌たちですが、どの人の常在細菌にも必ず少しは存在します。
普通の菌とは、日和見菌と呼ばれる菌たちで、普段はおとなしく身体のために協力的ですが、
時に悪のほうに染まり、病原性をあらわしたりする菌たちです。

それぞれの菌の組成やバランスは、人によって様々です。出産から乳幼児期に母親にお世話してもらうことにより、母親と似た組成になりやすいとされます。

ただし、他人と常在微生物の組成が違うということは、街の雰囲気が違うという意味で、良い悪いという価値のものではありません。
どんな雰囲気の街でも、よい住民も悪い住民もいるものだし、よい運営をされている時と荒廃がすすむ時はあるものです。

きれいな街にはよい住民が暮らし悪党は大きな顔ができない反面、汚れた街には悪党がのさばりやすく普通の住民も悪に染まりやすくなります。
なので、菌たちの住む環境をよいものにしておくことが、健康にも免疫にも重要となります。

まとめ

  1. 免疫を担う白血球たちは、それぞれの持ち場で役割分担して働いている
  2. 白血球たちはそれぞれの発する警報信号(サイトカイン)をつうじて、連携している
  3. 白血球たちの行動には、攻撃するものと、それをおさえる役割のものがある
  4. 免疫には不審者対応の「自然免疫」と指名手配犯対応の「獲得免疫」がある
  5. 白血球が使う武器は、サイトカイン、活性酸素、抗体という名のたんぱく質
  6. サイトカインにより炎症反応(発熱、腫れ、痛みなど)が起きる
  7. 白血球たちと常在微生物たちは、共同して免疫にかかわっている
  8. 常在微生物は、住む環境が良ければ協力的に、悪ければ非協力的になる

これらの、白血球と微生物の役割をおさえた上で、免疫機能をあげる方法について考えてみます。

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