野菜の栄養

セルフメンテナンス

野菜について、第3弾です。
第1弾第2弾では、野菜の栄養素:食物繊維、フィトケミカルについて見てみましたが、従来の野菜のイメージは「ビタミン・ミネラルが豊富」ではないでしょうか?
野菜や果物の栄養について考えます。

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野菜の栄養価は変化している?

野菜の栄養が減っている説

「昔とくらべ、野菜の栄養が少なくなってきている」とは10年くらい前からよく聞くようになった言説です。
ネットで検索してみると、両論がそれぞれ主張しています。ざっと目についたサイトをいくつか挙げてみます。

肯定する意見


否定的な意見


肯定派の主張は、過去と現代の『食品成分表(文部科学省)』をもとに比較し、実際に栄養価が下がっている、とのことで、反対派の主張は、今と昔は測定法が違う、旬のものと非旬のものを比較しているだけなので、本質的に違いはない、とのものです。
そして、肯定的な意見は農家さんからが多く、否定的な意見は栄養士さんからが多い、というのも興味深いです。

私はこのどちらが正しいのか判定する立場にないのですが、学術的な検討はされていないようなので諸説入り乱れているようです。(昔の野菜を手に入れることはできないので、資料で検討するしかないのでしょうが…)
そう考えると、測定法が違うなら補正すればいいし、昔は旬のものしかなかったのだから全部旬のもので測定すればいいようにも思うのですが、そうはならないのでしょうか?

私個人的には、肯定派の方に分があると感じています。
肯定派サイトの多くは、どうすればいい野菜を作れるかを考察しているのに対し、否定派サイトでは、サプリや健康食品の否定が目的になっているものが目につきます
ポジショントークではなく、目の前の事実に即して考えていきたいので、私のこの文章は肯定派よりのものになることをお断りします。

ひじきショック事案

「ひじきショック」とは私がつけた名前ですが、2015年の食品成分表改訂で文部科学省よりコメントが発表され、報道された事案がありました。

ヒジキ「鉄分の王様」陥落 食品成分表、5年ぶり改訂 - 日本経済新聞
文部科学省は25日、日ごろ口にする食品の栄養成分をまとめた日本食品標準成分表の改訂版を公表した。製造に使う釜の多くが鉄製からステンレス製に代わったことで、ヒジキに含まれる鉄分が大幅に減った。成分表は学校給食の献立づくりや栄養指導などに幅広く使われている。1950年に初版が作られ、今回の改訂は5年ぶり7回目。発芽玄米や加...

今まで、ひじきは鉄分が多いと考えられていたけれども、それはひじきに含まれる鉄分ではなく、ひじきを煮るときの鍋の鉄分を測定していたものだった、という発表です。
ひじきだけではなく、鉄製の包丁で調理、検査されていたものも、包丁の材質が変わったら軒並み鉄分含有量が下がってしまった、とのことです。

なぜこれが事件だったかというと、日本の医療界(厚生労働省含)が共有していた「日本人の食生活は貧血(鉄不足)にならない」という神話を覆す事実だったからです。

余談:世界の鉄事情

鉄不足は保健事業のもっとも基本的な介入事項と考えられ、世界各国で対策がとられています。
母乳育児を推奨するWHOも、母乳栄養児の鉄分不足に注意喚起をしており、各国での育児指導に反映されていると聞きます。
実は、現代の「小児科学」の教科書では、鉄不足についての記載は鉄欠乏性貧血以外ではほとんどありません。20世紀初頭頃の教科書では、鉄不足でおきる「成長障害・発達遅延」についての記載が詳細に載っていたといいます。
対策はとられているのが当たり前で、鉄不足は過去の問題になっているということです。

その中において、日本はかなりめずらしい方で、鉄不足に対する保健事業がありません。多くの他国では、国の主要食品に鉄分が添加され、国民の鉄不足の予防措置がとられているといいます。

日本で何の措置もとられていないのは、やはり「日本の食生活では鉄不足はおきない」という神話があったからだと思われます。

しかし、神話は覆されました。昭和の時代は当たり前だった“鉄製の調理器具”は、重くて手入れを怠ると錆びやすく、令和の家庭や企業の事業所からは姿を消しました。(最近、少し戻ってますが)
いつまでも迷信にすがらず、日本人の食べる野菜や海藻に鉄分は足りない、という事実に向き合うべきだと思います。

野菜の栄養価は土次第らしい

治水と近代化農業の影響?

私は農業をきちんと学んだことはないので、以下聞きかじった話をまとめてみます。

野菜や果物の栄養は、光合成でつくられる酸素以外は、土壌から吸い上げたものによって構成されます。
地球を構成する元素の中で、一番多いのは鉄です。小学生の時、理科の授業で、磁石を引きずって砂鉄を集めたことがありましたが、普通の土の中に鉄はたくさん存在します。

畑の土にも本来、そのようなミネラル分(鉄など)や微生物がつくる様々な成分が含まれていて、植物を構成する要素になっています。
しかし、植物を何度も育てていると、土壌の栄養が少なくなり成育が悪くなってくる、という事がおきます。いわゆる、土地がやせるという現象です。

ここで少し別のことを考えてみます。

ここのところ、毎年のように河川の増水と決壊が起きています。それは大変な被害なのですが、近代化する以前には、大掛かりな堤防もなく、毎年のように被害にあっていたと歴史は言います。
そのため、田んぼや畑は低い土地につくられ、河川の増水時には遊水地としての役割をはたし、市街地の浸水を防いていたと言われます。
その年の作物に多少の影響はあったかもしれませんが、これにはよい面もあったと思われます。

古代エジプトでは、ナイル川の氾濫により栄養分の高い土がもたらされ、小麦の生育を助けたと言われますが、それと同じで、川の増水によってもたらされる山の土が、畑や田んぼのやせた土を再生する面もあったと思います。

現在は近代型の大型堤防によって、田畑の浸水は珍しい事象になっています(ないわけではないですが)。
なので、やせた土地の再生と立派な作物を育てることは、自然がもたらすものから近代化した農業技術によって得られるものに変わっていっているようです。

化学肥料と自然農

私の家でもベランダ菜園をするのに、肥料を買って使ったことがありますが、肥料の成分は大きく分けて3種類:窒素、リン、カリウムです。
これらを使うと、作物は大きく立派に育ちます。が、少し問題もあります。
虫がつきやすい、という問題です。結局、虫よけ、農薬の類を使わないと、満足いくものを作るのは難しいのです。
このあたりが野菜の栄養価の低下と関わっているようです。

私も虫はやや苦手なので、虫問題は捨て置けません。
調べたところ、自然農の場合、作物に虫がつきにくいと知りました。

植物は、虫や動物に食べられないように、自然毒をたくわえることは以前少し触れました(『動物性たんぱく質と植物性たんぱく質』)。
これらの自然毒やフィトケミカル(虫の嫌う芳香成分が多い)は、植物が健康なほど多いため、健康な植物には虫がつきにくい、という理屈があります。

なぜ自然農だと植物が健康に育つのか、この答えは土にあるそうです。
健康な植物を育てる土には、微生物がたくさん生息しているということです。
化学肥料のような単調な栄養分では、微生物の多様性が下がり、養分が植物にとって最適な段階まで代謝されずに吸収されることになり、これが植物の不健康さと虫の喜ぶにおいになるのだそうです。

まるで、腸内微生物の多様性と人の関係に似ています

多様性の大きな土で育てられた植物は健康に育ち、虫がよりつかなくなるため、結果として無農薬になります。そのような野菜は、栄養素もフィトケミカルも多く含まれているといえます。

どんな野菜を選ぶのが正解?

栄養やフィトケミカルを取り入れるために野菜を食べるので、栄養やフィトケミカルの多い野菜を買うべし、ということになります。

今の日本で、河川の氾濫による土の再生を商業的に利用しているところはないと思うので、自然農に近い農業を行っている農家さんの作る野菜を手に入れるのが、よいと思います。
(つまり、微生物や堆肥では鉄分の補充はできないので、構造的に鉄分の多い野菜は手に入らないことを意味します、鉄についてはまた別稿で考察します)

スーパーなどで売っている野菜は玉石混交なので、選ばなければなりません。

私の読んだ本(下記リンク)では、スーパーなどで買う際は「無農薬・おいしそうな見た目(実際においしい)・虫がついていない」が大事なポイントとありました。また、最近は農家さんの名前つきで売られているものもあり、いい野菜をみつけたら、名前を覚えてひいきにすることもできます。
農家さんが知り合いであれば、土づくりを見せてもらうこともできます。

ちなみに、私が買っている野菜の農家さんの畑を見学したことがあるのですが、いい土にはみみずはいないと説明をうけました。曰く、みみずは土が作られる途中にあらわれて、土ができあがると別のみみずの必要な土に移っていくのだそうです。いい土の条件は、みみず(虫)ではなく微生物ということです

また、無農薬野菜専門の通販サイトや、野菜定期契約なども利用できます。
少し高くはつきますが、“買い物は投票”のつもりで買ってみたらいかがでしょう?無農薬・無肥料の野菜を求める消費者が増えれば、市場の原理で生産者も増え価格は下がります。

また、健康野菜は傷むのが遅いメリットもあります
傷ませてしまうことが減ったので、結果としてコストパフォーマンスは悪くないように思います。

我が家では、2週ごとに野菜が届きますが、葉物野菜はその都度調理し、それ以外は、まとめて前稿でお薦めした「重ね煮」を作り保存しています(葉物は重ね煮に不向きです)。
無農薬なので、皮ごと使えます。皮の下に一番多いといわれる栄養素を捨てずにとることができます。

ぜひ「いい野菜」を探して投票してみてほしいです。

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