日本人のたんぱく質摂取量の実際~身長との関連も

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普通に食事してるしたんぱく質不足なんて関係ない、という人へ、「普通」がいけてないかもしれない、という話を書いてみます。
特に、成長期前のこどものいる方におすすめします。

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日本人の今のたんぱく質摂取量は1950年代と同じ水準て知ってました?

以前、たんぱく質摂取量について調べたときに作ったグラフを貼ってみます。
国立健康・栄養研究所の公開している国民健康・栄養調査をもとに作ったものです。昭和21年の分から毎年分あるので、興味のある方は楽しめると思います。2020年6月現在、2018年までのデータが公開されています。

たんぱく質量については、1995年からは男女別ですが、それ以前は成人(あるいは、農村部住民と都市部住民や、生産者と非生産者というかたちでの分類)しかなかったので、グラフは成人(1995以降は20歳以上男女)でのデータをプロットしてみました。(左側の軸はg/日です)

戦後の貧しかった時代から、高度経済成長を経てバブル期頃まで、たんぱく質摂取量が増え失われた20年とともに下がるという経過が伺えます。
不況との関係がありそうですね。
ちなみに、総熱量(カロリー)のピークは1970年代前半です。たんぱく質以外の食品の摂取量が減り始め、00年代以降は全体的に小食化が進んでいる、ということかもしれません。

たんぱく質と身長の気になる関係

では、たんぱく質が不足しているとどんなことになるかというと、厚生労働省のページでは「成長障害・体力や免疫力の低下」と書かれています。(医学用語で“成長”とは身長・体重といった発育のことを指します、発達とは意味が違うので注意してください)
調べて驚いたのですが、厚労省のサイトに「成長障害」と書いてあるのは画期的だと思いますし、「免疫力」と書いてあるのはもっと画期的です(理由はこちら)。

私の経験上では、問題になるレベルの栄養不良による成長障害は、ほぼ虐待(ネグレクト)と思われるケースか重度の内臓疾患によるものどちらかなので、栄養(たんぱく質)単独で身長にどのくらいの影響があるかは調べられていません(虐待によって身長の伸びが低下するのは、栄養だけの問題ではないです)。
倫理上、実証実験はできないので、エビデンスが出ることはない事柄です。なので、厚労省が言い切ったところは画期的と思うのです。

そういうわけで、個人の身長についての見解は出しにくいのですが、集団としての身長には各国データがあります。

一般的に、国民の平均身長と栄養状態(特にたんぱく質摂取量)には相関関係があるといわれ、日本以外の欧米の国でも同様です。

高身長でイメージされるスウェーデン人男性の平均身長も、19世紀後半は今より20㎝程度低い170㎝台と、現在の日本人男性とほぼ変わらなかったようです。遺伝素因が違うので、たんぱく質量だけ同じにすればスウェーデン人並みの高身長になれるという保証はありませんが…。

では日本人のデータを見てみます。
先ほどのグラフに、同じ国民健康・栄養調査から「成人男性の身長」のデータを重ねてプロットしてみます。(左側の軸:g/日、右側の軸:㎝)

1970年代以降、急激に伸びているのわかります。
ちなみに、江戸時代末期(1860年代)の日本男性の平均身長は155㎝と言われるので、やはり近代化によって20㎝近く伸びているようです。

このグラフでみると、たんぱく質摂取量が増えて20年後くらいから平均身長が伸び始めるので、生直後(場合によっては母の妊娠中・妊娠前)からの栄養が子の身長に反映すると、直感的には理解できます。

すると、気になるのは、たんぱく質摂取量の減った2000年代以降生まれの子の身長ですが、国立成育医療研究センターから関連しそうな報告が出ています。

記事によると、1980年生まれを境に、ピーク身長が下がり傾向になっているとのことです。生まれ体重が小さい子が増えたこととの関連が考察されています。(余談ですが、ピーク身長の平均は男性全体の平均身長とは違います、後者は年代比率:高齢化の影響をうけやすい数字といえますね)

そこで、たんぱく質量との関連をみると、1980年生まれは成長期の最後までたんぱく質量が保たれた年代だということがグラフからは読めます。
低出生体重児とたんぱく質摂取量、どちらの影響が大きいでしょうか?
私は該当者の数的に、たんぱく質摂取量の方が影響が大きいと思うのですが。

もちろん、身長の頭打ち現象はたんぱく質量だけの問題ではありません。遺伝的な要因もあるかもしれません。
またこの時期は、肥満をはじめとする生活習慣病、発達障害などが先進国で増加し日本に広まった時期と重なります。欧米の国では、日本人よりもたんぱく質摂取は多い国がほとんどです。

なのではっきりしたことは言えませんが、1950年代並の量になっているという事実と、厚労省が高齢者のたんぱく質摂取不足を問題視していることを合わせると、全年齢の人がたんぱく質を意識して摂取したほうがいい、のは間違いないと思っています。

「普通の」「バランスのいい」食事??

私は今は低身長の診療はしていませんが、昔も(おそらく)今も、たんぱく質や栄養の摂取が具体的に指導されることはないと思います。

低身長に限りませんが、医師から栄養摂取の指導がないことには理由があります

ひとつは上に書いたとおり、エビデンスがないからですが、もうひとつは、ちょっと毒を吐くと、医師の多くは男性で、専業主婦の妻をもらって家事貢献ゼロで過重労働するのがデフォルトだから、だと思います。
つまり、多くの、特に業界を仕切る立場の年配の男性医師は、日常的に食事を用意するというリアルを全く知らない可能性があります。経済面にあわせて、どんな食材を買って料理して食べるか、想像もつかなければ、「普通に」「バランスよく」というあいまいな指導にならざるを得ないということです。

若い世代の人は、男性の家事参加もあたりまえだし、医師の女性比率も上がり、男女とも過重労働にNOを言う人も出てきているので、今後は変わっていくと期待していますが…。

いずれにせよ、病院で「バランスよく」と言われた時は、知識と経験の不足した医師の逃げ口上を疑った方がよいでしょう。
バランスより大事なのは、たんぱく質量を計算すること(前稿参照)と、野菜は食べることだと思います。

そして、身長を伸ばすために大切な栄養素は、身体の機能を働かせるためにも大切な栄養素です。身長が止まった(実際は伸びないだけで新陳代謝してる)大人でも、同じということです。

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