好き嫌いについての考察①

子育て

これは私の個人的な体験ですが、保育園の時の給食でグリーンピースを嚙んだ瞬間、吐き気を催し(吐かずに我慢できましたが)、それ以来グリーンピースが嫌いです。

その後、高校生の頃、家族でフレンチレストランに行きました。嫌いなものがあるか聞かれたか覚えていませんが、わくわくしながらコース料理を楽しんでいたところ、本日のスープが「グリーンピースのポタージュ」という事件がおきました!

家族は笑いながら「おいしいよ」と食べています。高級レストランのせっかくの一皿を残したくない、恐る恐るにおいをかいでみると、臭さはありません。思い切って口に入れてみたら、おいしかった…

私はその時、グリーンピースでもおいしい時もあることを知りましたが、グリーンピースが好きにはなりませんでした。
「おいしい」と頭で理解できても、「好き・嫌い」は覆らないということです。

吐きそうになった、という体験はちょっとしたトラウマ記憶です。トラウマ記憶とは、記憶にその時の嫌な感情や情動が一緒になって記憶されているタイプの記憶です。認知が間違っていたと頭では理解しても、感情の修正は難しいものです。

このような状況に子どもを陥らせない方法について、考えてみます。

本稿は、味覚のしくみと、好き嫌いの自然経過について考察します。
自閉系の子の偏食もこだわり要素で強固になっているものの、基本は同じです。
次稿で、食経験の記憶について考えます。

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味わう:味覚、嗅覚、触覚の共同作業

Covid‐19の感染でにおいを感じなくなるという症状があるとされますが、「においがわからないことで一番困るのは、食事が味気なくなること」と言えるくらいに、味わうという行動は味覚だけではなく嗅覚きゅうかくの影響をうけています。
冒頭の私の経験でも、グリーンピースの味よりにおいを重視して口に入れるかどうかの判断をしました。

また、経験的に知られていると思いますが、食感が嫌いというタイプの好き嫌いもあります。べちょっとした食感やぬめっとした食感は嫌われる率が高いように思います。

子どもの(大人も)好き嫌いには味覚だけではなく嗅覚も触覚も関係しているということを知っておきましょう。

味覚について

舌の感覚器官をつうじて認知される感覚です。
舌や口腔内にある“味蕾みらい”という名の細胞を通じて、主に5つの基本味(甘味、うま味、塩味、酸味、苦味)を感知するとされます。また6つ目の基本味として、脂肪を感知する“脂肪味”もある、と研究されているようです。

この5つ(6つ)のうち、甘味は糖(炭水化物)、うま味はアミノ酸類(たんぱく質)、塩味は塩分(電解質)、脂肪味は脂質という身体を機能させる基本的な栄養素に対応しています
一方、酸味は腐っているサイン、苦味は毒がある・食べられないもののサインで、身体にとっては警戒を引き起こす味です。

身体の本来的な働きでは、身体に必要なものをおいしいと感じ、身体に危険なものはおいしくないと感じるように、味覚は機能していると言えそうです。

身体を機能させる栄養素の味
(おいしいと感じる味)
  • 甘味:糖(炭水化物)
  • うま味:アミノ酸類(たんぱく質)
  • 塩味:塩分・電解質
  • 脂肪味:脂肪酸(脂質)
身体が警戒するものの味
(おいしくないと感じる味)
  • 酸味:腐っているサイン
  • 苦味:毒/食べられないもののサイン
  • (辛味)

とはいえ、人類の長い歴史の中で、酸っぱくておいしいもの、苦味がおいしいものもたくさん開発されました。人は文化を伝承するなかで、食べられる酸味と苦味を学び、酸っぱいものや苦いものをおいしいと感じるようになってきたようです。

人には本能的においしいと感じる味覚と、学習によっておいしいと学ぶ味覚があるということになります。このことを押さえておきましょう。

嗅覚について

嗅覚きゅうかくは鼻の中にある嗅細胞をつうじて認知される感覚、いわゆるにおいです。

嗅覚は味覚を含む他の感覚(いわゆる五感)と大きく違うところのある感覚です。
ちょっと難しいかもしれませんが、他の五感は“末梢神経”の出先機関で、一度脳のセンターで統合されて認知されますが、嗅覚はにおいを感知する嗅細胞が脳の一部で、末梢神経ではなく中枢神経そのものだという違いです。

そのため味覚と違い、嗅細胞は数十万種類ものにおい分子を同時に感知できます。
たった5つの味覚とは違って、食べ物の発する数十~数百ともいうにおい分子を瞬時に嗅ぎ分けます
これが、においが味覚以上に味わうことに寄与している正体といえます。

嗅細胞は脳の一部なので感知されたにおい分子は迅速に処理されます。本人が「○○のにおいだ」と認知する以前にすばやくです。
腐ったものなどを口に入れると、味がわかる前に吐き出したりすることがある(反射)のはこのためです。

このすばやい反射自体は、触覚などでもありますが(熱いものを触った時に熱いと感じるより早く手を引っ込める)、嗅覚ではより強いと考えられます。

嗅覚は脳の一部で、他の五感以上に多彩なものを嗅ぎ分けているということを押さえておきましょう。

口腔内の触覚について

口の中でも触覚は皮膚の感覚と同じです。
触っている感じ、押されている感じ、温度、痛みなどを感じます。

食べ物の“食感”という要素は、触覚によるものです。歯ざわりも歯をつうじて得られる触覚と言っていいと思います。

また、味という点で言うと、辛味は痛み刺激として認知されます。温度も皮膚と同じで、熱すぎ、冷たすぎは痛みとして認知されたりします。
当然、痛みは本能的にうれしい感覚ではないので、辛味は本能的にはおいしくない、学習によっておいしいと感じる味といえます。

べちょっとかぐにゃっとかした食感が苦手な人が多いのも、それらが腐ったもの食感に似ているせいと考えられます。本能的にはそれらの食感は好まれないもの、と言えそうで、学習によっておいしいと感じる食感と思います。但しこれには遺伝的要素もあるように思います(詳しくは次稿で)

味わいとは、このような複数の感覚の共同作業の結果です。
もちろん、経験によって視覚や聴覚も味わい作業の一部を形成しています。

これらの感覚は、生まれ持った生理機能ですが、それが好き嫌いの形成にどうつながっていくのかを、考えてみます。

味の学習のしくみ;好き嫌いの自然経過

味の学習には2通りのルートがあります。

  • 成長・発達にともなって変化するもの;年齢、生理機能の要素
  • 快・不快の記憶によるもの;遺伝的に脳に組みこまれた記憶、生まれてからの体験による記憶

まず、成長・発達によって変わる部分から見ていきます。
快・不快記憶については、次稿に続けます。

離乳期~幼児期早期:脳の回路が作られる時期、さまざまな味にトライ

母乳は薄い甘味で(乳脂肪分も多いので脂肪味もあるでしょう)、独特の乳臭さとともに、安心感、温かさ、満腹感など、心地よいもの(快刺激)として記憶されると考えられます(ミルクもほぼ同じ成分をめざして作られています)。
糖や脂肪は赤ん坊の必要とする栄養素なので、甘味や脂肪味が嫌いな人はあまりいないのは、本能的な面に加えてこういう体験によるのかもしれません。

そして離乳期になると、様々な味のものに出会います。

離乳期~1歳半くらいまでの子は、それ以降に比べると偏食は多くはありません
離乳は咀嚼そしゃく(噛むこと)の訓練でもあるので、食感についてはどろどろのものから段階をおって固いものに移行しますが、味についてはわりとどんなものでも食べます。

後述しますが、味、においに慣れていくためには、“心地よい”と感じる環境で様々な刺激に慣れる必要があります。
心地よいとは、生理的欲求が満たされて危険を感じない環境と考えればよいです。簡単にいうと、温かい雰囲気で食事をするということです。ほとんどのお宅では赤ちゃんの離乳場面はそのような食卓になるでしょう。
そのような雰囲気でいろんな味・においにトライすることになります。

ただし、注意したいところは、濃い味付けにしないことと、酸味、苦味、辛味が強いものは避けることです。

感覚は脳に伝えられて、脳で認知されますが、赤ちゃんの脳はまだ未熟です。入ってきた刺激を処理し、その刺激に一番適応した回路をつくっている最中です。
“濃い”刺激に適応してしまうと“薄い”刺激に反応しにくくなる、というのはできあがった脳(幼児期後期以降)の話で、赤ちゃんの脳は“濃い”刺激に適応してしまうと“薄い”刺激に反応できなくなる可能性が高いのです。(“しにくくなる”と“できなくなる”の違いを理解してください)

これは言語学習において、幼少期に聞いたことのない発音は聞きとれなくなる(再現もできなくなる)聴覚の現象としても知られますし、電気信号に慣れてしまうと点滅するなど激しい刺激にしか注意をむけられなくなる視覚や注意力の現象もあるそうです。
“濃い”味付けに脳を適応させてしまうと、一生薄めの味がわからなくなる可能性があるということです。

また、「身体にとって身体が警戒するものの味(酸味・苦味・辛味)」は、本来的にまだ体の弱い子どもにとって最も危険なものの味と言えます。野菜などの特殊なにおいも同様です。
子ども達がこれらの味を嫌うのには、生理的な理由があると考え、無理強いをしないようにしましょう。

幼児期中後期:好き嫌いは“いやいや + 遺伝”

2歳前くらいからの子は、一般にたくさんの好き嫌いをします。
乳児期に食べていた物でも、「いや!」ということが多くなります。

いやいや期にあたるからたまたま、とも考えられますし、乳児期よりも食事内容のバリエーションが増えることも理由と言えそうです。
離乳食は家族とは別に作ることも多いと思いますが、離乳後は家族と同じものを食べることになります。なので、初めて食べるものに出会う機会も多いのではないでしょうか。

上にも書いた通り、子どもは酸味、苦味、辛味が苦手です。
ヨーグルトや果物など酸味は甘味と合わせることで克服することが多いですが、多くの子どもが嫌う野菜は、ピーマン、パセリ、セロリなど微妙に苦味のあるものやにおいのきついものが多いです。

このように、自分の苦手な味にふと出会うと「いや!」となると思われます。
乳児期は食べていたものでも拒否するのも、NOをはっきり主張できる段階まで発達してきたということかも知れません。

また、以前記事で紹介した双子研究では、食べ物の好き嫌いや初めてのものを警戒する態度は遺伝の影響をうけていることがわかっています
どのにおい、味が好きか嫌いかは、生まれつき決まっている部分もあるのです。
どんな育てられ方をしている子でも、好き嫌いはあるのが普通と理解しましょう。

一方、この時期までに、まったく口にしたことのないものは、嫌いになりやすいことが、研究で知られています。上の章の感覚認知の発達の影響で、その味をおいしいと感知する回路がなくなってしまうのかもしれません。

なので、嫌うものを無理に食べさせる必要はない、と言いたいのですが、何かに混ぜる、好きな味付けにするとかして、ほんの少しだけは食べるようにした方がよさそうです。色んなものを少しづつでいいので、食べる練習をしてみましょう。
(無理をする必要はないですが、嫌いなものでも繰り返し食べさせることで克服できる、という研究もあります、参考までに)

そして、この時期くらいまでによく食べたものを好きになりやすい、という研究もあります。
これは、肥満や生活習慣病が社会問題になっている国での調査が多いので、よく研究されているのは「甘味」や「塩分」です。
幼児期までに、甘い(特にジュース)ものや塩辛いものをよく食べると、大人になっても糖分の多いものや塩分の濃いものを好んで食べるようになる、という研究です。

次稿の食事体験の記憶の問題ともつながりますが、甘味や塩味は身体に必要な栄養素の味なので、“快刺激”をともなう体験になりやすいということなのでしょう。

研究されているのは甘味と塩味だけですが、これはジャンクフード全般に言えると思います。将来の子どもにあまり食べてほしくないものは、「あげない」という厳しさも必要かもしれません。

「甘味」について盲点は“フルーツジュース”です(下記参考リンク参照)。
果物なので一見健康そうなイメージですが、糖分濃度は相当なものです。ジュースは一気にたくさん飲めるので、糖分摂取量が多くなる問題もあります。100%フルーツジュースでも同様です。
こどもの飲み物は糖分のないものにして、果物は加工してないものを食べるようにした方がよいと思います。

生理的には、酸味、苦味、ある種の香りなどに対する不寛容や、初めてのものへの警戒心は、5~7歳以上でおさまってくると言われます。
子どもだからこそ食べられなかったものは、小学生以上くらいでは克服する、ということです(例外はありますが)。

ただし、年齢が上がれば勝手に食べるようになるとは限りません。
鍵は、友達がどうしているか、です。
学校や園の給食の方が、好き嫌いが解消しやすいのです。理由は次章で解説します。

子ども集団への参加:給食で好き嫌い克服

社会学の研究によると、子どもが“文化”を学ぶのは、親からではなくて仲間の子どもからであると言われます。

子どもは家でのローカルルールを友達に知られることを恥ずかしがります。友達がどうふるまうのか、何が普通かということを一生懸命さぐり、同調しようとします。
1歳児くらいから、大人よりも同年齢域の子どもを意識しているという調査もあります。

意外ですが、同調圧力は日本以外の国でも認められていて、特に思春期前の子ども集団で一番熾烈だというのは、多くの国で共通のようです。

また、日本など先進国では1年区切りの同年齢児が集められて教育を受けますが、伝統的な村落社会では子どもはある程度の年齢層が一緒に集団をつくります。
子どもの年齢層に幅があると顕著ですが、子どもは自分より少し年上の子どもをモデルに「普通」を学びます。日本だと、兄や姉のいる子が子ども文化を率先するのはイメージしやすいと思います。

つまり、子どもの集団の中では少し大人っぽく振る舞うことが、「普通」に仲間に同調していく秘訣ということになります

また私の体験で恐縮ですが、小学生の頃「辛いから」という信念で大根おろしを食べなかったのですが、5年生の時の宿泊学習の夕食の大根おろしを友達が「甘くておいしいよ」と言って食べた時から、食べられるようになりました。

その方が大人っぽく見えることは、どんどん仲間の真似するということです。

ですが、家庭の中は子ども集団ではなく“子ども”としての立場が求められるので、“子どもっぽい振る舞い”が選択されやすくなります。外でできてることを家ではやらない、子どもあるあるはこういうことです。
きちんと外の社会で学んでいることは、家でできていなくても、焦らず見守りましょう。家庭での子どもの立場が“大人”になった頃には、克服できてると思います。


この理論では、周りを意に介さない発達障害の子は不利なようですが、実際はそれほどでもありません。

私の外来での担当患者さんたちのほとんどが、療育グループ、保育園、幼稚園、学校など子ども集団での食事の方が、家でより色んな種類のものを食べています

しかし、いくら給食で食べていても、家ですぐ食べるようになるとは限りません。
同じメニューを、作り方の詳細まで聞いて再現しても「家では食べない」という話もきくので、やはり同年代集団のパワーは大きいようです。
家の食事を嫌っているわけではなく、これも子どもあるあるのひとつとして見守っていきましょう。

ですが、中にはごく一部ですが、かたくなに偏食を続ける子もいます。
発達障害におけるこだわりは、“脳機能の柔軟性の乏しさと安心を求める心理”と私は考えていますが、偏食により十分な栄養が脳に届かないと、脳機能の柔軟性がますます失われる悪循環になります。嗅覚などの過敏性も悪化しやすいと言えます。(参考;発達障害特性のなりたち~自閉編

なので、食べられるものでできるだけ栄養を脳に届けながら、食べることへの安心感を経験してもらうことが、対策になると考えています。

「食べることの安心感」とは、食事にまつわる心地よい記憶により得られます。
記憶といっても、無意識の奥にしまわれているようなタイプの記憶です。冒頭のグリーンピースの例のような。
こだわりの強い子で顕著ですが、すべての子どもにとっても食嗜好に影響する要素です。

次稿;食事における快・不快記憶の話題に続きます。


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