動物性たんぱく質と植物性たんぱく質

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今まで「たんぱく質をとりましょう」という記事を書いてきて、意図的に黙ってきたことがあります。
「動物性と植物性の違い」についてです。

私の周りでも、たんぱく質を薦めると、豆腐を食べたり“ソイプロテイン”を買ったりする人が結構いますが、特別に信仰上の制約があるとか、前稿に書いたようにごく少量のたんぱく質でももたれたりする人以外は、動物性の摂取を優先することをお薦めしています。

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たんぱく質の基本知識

アミノ酸がつながってできるのがたんぱく質

たんぱく質は、20種類ある“アミノ酸”がつながっている物質のことを言います。
というと、糸のようなものを想像しますが、糸状というよりは糸がごちゃごちゃと折りたたまり塊になっているような性状です。

その塊は適当に固まっているわけではなく、アミノ酸の並び方によって化学的な力が働き、折りたたまり方も決まるので、実際には“アミノ酸の配列”というのが重要になっています。
アミノ酸の配列はどう決まっているのかというと、生命の源:遺伝子(DNA)に暗号として書かれています

遺伝子とはたんぱく質の設計図といえるわけです。

たんぱく質とアミノ酸の関係については、いいたとえがあります(元ネタ:福岡 伸一『動的平衡』)

アミノ酸:20種類をアルファベット:26文字と例えると、何文字かで「単語」、それが「文」「文章」「章」「ページ」と長くなってひとつの「作品」となります。
このアルファベットの配列は、「意味のある並び方」になっていないと、「意味のある作品」にはなりません。

たんぱく質もこれと同じで、アミノ酸の配列はランダムではなく、遺伝子に決められた「意味のある配列」でないとだめ、と決まっています。

前に書いた、アミノ酸が古くなって劣化した状態とは、作品に使われる文字がかすれたり汚れたりという状態とイメージできます。
何文字かかすれてても、作品としての意味はわかります。
でも、かすれた文字が多くなっていくと、だんだん、何が書いてあるのかわからなくなる…これが、たんぱく質が機能不全になってきた状態といえます。

身体は常に、新陳代謝として「作品」をアルファベットまで分解し組みなおすという作業を行っています。
かすれたり汚れたりした文字をきれいなものに置き換えていくためには、食事で常に新しいたんぱく質を摂取する必要があるのです。

動物性と植物性の組成のちがい

アミノ酸の並び順を決めている遺伝子は、人と猿では99%以上、人と他の哺乳類でも80%以上程度似通っています。一方、人と植物では、例えばバナナとは50%程度しか共通する遺伝子はないそうです。

これは、その遺伝子をもとに作られるたんぱく質に使われるアミノ酸の配合割合が、動物性と植物性では違うと想像できます。
動物性と植物性の作品は、似ていないため、使われている文字比率もちがってくるという事です。

なので、ある作品を新陳代謝するために、似通った作品の文字を使った方が、過不足なく充足する可能性が高いといえます。
言い換えると、私たちの身体は植物ではないので、新陳代謝には動物性のたんぱく質の方が、必要なアミノ酸の充足率が高いということです。

これが私が動物性を優先してと推奨する理由です。同じ量のたんぱく質を摂取したとき、動物性の方が効率がよいという事です。

必須アミノ酸と非必須アミノ酸

アミノ酸20種類は、体内で生合成できるかできないかという事で、分類されます。
“必須”アミノ酸とは、体内で生合成される回路が人にはないため、食事から摂る事が必須のアミノ酸という意味です。
それ以外のアミノ酸は、体内で他のアミノ酸から合成されることが可能です。

勘違いされやすいのですが、必須アミノ酸以外のアミノ酸は必要ないという意味ではないことです。
体内で合成されるということは、足りなくなっても多少は融通されるというくらいの意味で、足りなくならないわけではないです。
また、その合成に使われたアミノ酸が足りなくなるリスクもありますし、合成反応のために酵素やエネルギーが消費される側面もあります。

“必須”の意味を間違えないようにしましょう。

動物性たんぱく質に注目すると…

以前に紹介した「たんぱく質摂取量」のグラフに「内動物性たんぱく質量」を重ねてみます。
終戦直後は一桁でしたが、今は60%くらいが動物性とわかります。

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スケールを変えてみてみると(左:総量g、右:動物性g)、もう少しわかりやすくなります。

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戦後日本人の栄養状態(たんぱく質摂取量)の改善は、動物性たんぱく質量の増加と相関しているように見えます。

同じ記事で「現在の日本人は戦後日本人と同じたんぱく質摂取量」と書いたのですが、実はこれもややミスリードでした(わざとですがw)。
現在の動物性たんぱく質摂取量は、戦後すぐよりはだいぶ多い量でキープできています。なので、戦後と同じ量のたんぱく質摂取水準ではありますが、たんぱく質の内容はだいぶ違うと言えます。

とはいえ、たんぱく質摂取量が減り傾向なのは、好ましい変化ではありません。
厚労省が「フレイル予防のためにたんぱく質摂取を増やしましょう」と発信していることを忘れないようにしたいです(参考;厚生労働省パンフ)。

日本人には植物性があう?

“日本人と欧米人など外国人の身体に違いがあるのか、それぞれに合った食事があるのか問題”ですが、私は常在細菌の違い以上の違いはほとんどないと考えています。
常在細菌は母から子へ、養育者から乳幼児へ移行するので、文化や遺伝傾向と近い関係にあり区別がつきにくいことも確かです。

今後、社会の多様化が進むと見えてくるものもあると思うので、注目していきたいと思います。

昔の日本人は植物性たんぱく質摂取が多かったことを示しましたが、それが現代日本人の健康に役に立つのかを考えてみます。

徳川家康の食事:麦飯5合

以前、徳川家康の戦国時代飯を再現したというニュースを見ました。
資料が残っているらしく、一日で「麦飯5合、いわし丸干し4尾、野菜の煮物、豆味噌」というような献立だそうです。
質素倹約を旨にしていた家康公は、偉くなったのちも豪華な食事を好まなかったというので、資料として残っている献立が普段の食事と考えてよさそうです。

一見して、米が多い!そして動物性たんぱく質は少ないとわかります。
以下のサイトで、たんぱく質量を計算してみます。

食品成分データベース
食品成分データベースは、食品成分に関するデータをインターネットを通じて提供しているものです。
  • 麦ごはん1日5合(1合150gとして):たんぱく質量52g程度
                      炭水化物570g(食物繊維含む)
  • いわし丸干し4尾(1尾40gとして):たんぱく質量52.5g

 別のサイトではいわしの丸干しのたんぱく質量は1尾:6.6gとあったので、52.5gは多いかもしれませんが、全体量としてかなりのたんぱく質量なことがわかります。
たんぱく質の半量以上が麦飯からとる“植物性たんぱく質”です。

家康公は70代と当時としてはかなり長寿で、子供も多く健康だったと考えられます。
植物性たんぱく質でも身体の機能の維持には十分に見えます

が!忘れてはいけないポイントがあります。

糖質量が半端なく多いことです。米だけで500g以上、野菜の糖質量を足すともっと多くなります。現代人がご飯一日3食(3膳)で糖質量が約150gなので、比べるとすごい量です。毎日5合の米を食べられる人はそういないですね。

知られていると思いますが、糖質は身体活動(脳含む)のエネルギー源です。それ以上でも以下でもなく、使いきれなかった分は「いつか使うときのために蓄えられる」ことになります。
また、老化現象のひとつ「組織の糖化」を引き起こします。

徳川家康の時代は当然ながら、電車、車、エレベーター、その他便利なグッズはなく、生活するだけで相当のエネルギーが消費されました。
なので、この糖質量でも健康被害はでなかったと考えられます。
家康公も晩年の肖像は肥満体なので、老年後は動かなくなりエネルギーが余り蓄えられていたのかも知れませんが…。

大豆は畑の肉…ですが

日本では縄文時代から栽培されていたらしい大豆は日本人にはなじみの食材です。
豆腐、揚げ、納豆、味噌、醤油など用途も多く、たんぱく質量も100g中15g程度と立派です。

米と違って糖質も多くなく、毎日の食事に取り入れたい食材です。

しかし、大豆にも注意点があります。
普通に食事の一部として食べる分には問題はありませんが、大量に摂取すると問題が生じる恐れがあります。

大豆を含むアブラナ科野菜に含まれる成分(ゴイトロゲン)は「ヨードの取り込みを阻害し甲状腺機能を低下させる」ことが知られています。
植物全般に含まれる毒性成分(レクチンやトリプシンインヒビター)は加熱すると毒性は下がるのですが、完全に毒性ゼロになるかはわかりません。

これらは植物が動物から身を守るためにもつ毒ですが、動物の側も毒のある植物を食べるように適応してきているので、伝統的に食べられている「食べ方、量」であれば、まったく心配はいりません

方や、「伝統的でない食べ方(生で)」とか、「そればかり大量に(大豆ミートやソイプロテインとして動物性たんぱく質の置き換え)」とかは、お薦めできないことになります。
また、豆乳はやや加工度が低いので、水がわりに大量に飲むのはやめておいた方がよいでしょう。

大豆は、通常の食材として日々の食事に取り入れるくらいが丁度よいと思います。

ちなみに、植物の多くは毒性をもちますが、動物は「毒(例えば、毒蛇や毒虫、ふぐ毒など)」としてその部分にある毒をのぞけば、毒性はありません。(訂正:厚労省『自然毒のリスクプロファイル』には、動物性の毒はすべて魚介類由来であり、陸上の動物を摂食することでの食中毒はまずないとの記載です)

まとめ:動物性をおすすめする理由

  • 動物性たんぱく質は植物性たんぱく質よりも、効率よく必要なアミノ酸を取り入れられる
  • 植物性たんぱく質を取り入れる際は、食材として取り入れる分には問題ないが、大量に蛋白源として摂取することは、米は糖質量、大豆は有毒成分の点からお薦めできない

結論として、たんぱく質を増やそうとして植物性食品を増やす意義はないと思います。
大豆製品や米などは、食事の楽しみとして取り入れていただければと思います。

また、信仰上の理由で動物性たんぱく質を摂れない(摂りたくない)方は、上記の注意点をふまえて、ひとつの食品に偏らないように気をつけてください。

腸内細菌が違うと得られる栄養素も変わります。親や育った環境が菜食主義ではなかった人が、大人になってからその食生活に適応するのはかなり困難と思います。
魚や乳製品などを柔軟に取り入れることをお薦めします。

▶ 次は、肉って身体に悪いんじゃないの?の疑問について考えてみます。

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