ミルク育児のメリットとデメリット

子育て

母乳とミルクはどうなのか、小児科側からみた、メリット・デメリットをみてみます。
母乳編につづいてミルク編、こちらはデメリットから書いてみます。

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ミルクのデメリット

ミルクのデメリット
  • お金がかかる
  • 出かけるときの荷物が増える
  • 調乳・洗浄・消毒などの手間がかかる
  • 赤ちゃんに合う哺乳瓶を探すのが大変

生活面でのデメリット

母乳のメリットの反対で、「出費」と「手間」がかかります
でも、母乳育児でもお母さんはその分を食べないと体力が持ちませんので、費用についてはあまり変わりないかもしれません。
出かけるときの荷物の量は、当たり前ですが増えます。

調乳の際には、必ず70℃以上(できれば熱湯をさましたもの)の湯を使って溶かし、さます必要があります。これはミルク特有の食中毒の菌(参考:厚生労働省『サカザキ菌Q&A』)を防ぐためで、ペットボトルなどの水でも必ず沸かしてください。
ちなみに、日本国内ではペットボトルよりも水道水の方が衛生基準が厳しいので、水道水で問題ないと思います。

液体ミルクは溶けていて、殺菌もされているので70℃以上にする必要はなく、調乳の手間は減らせますが、まだ割高であったりします。
それでも、緊急時、特に清潔な水や授乳のプライバシーが保てないような場面ではとても役に立つと思いますので、避難バッグなどには常備しておくとよさそうです。

哺乳瓶の消毒は必要?

上記のサカザキ菌は粉ミルクそのものにある食中毒リスクですが、それ以外の食中毒予防のために行う、哺乳瓶の洗浄・消毒も手間です。

但し、気をつけていただきたいのは、消毒よりも洗浄の方が大事ということです
菌は、水分と栄養分があるところで繁殖します。つまり、哺乳瓶の中に乳分が残っている状態が危険で、きれいに洗って乾燥したところでは繁殖しません。
パーツを分解して、隙間も残さないように洗い、流水でしっかりすすぎましょう。飲み残しも使いまわさず捨ててください。

また一般的な話ですが、食中毒の菌は生肉や卵の表面に多くいますので、そういうものを扱う際には、水分の飛び散りや調理器具の使いまわしに、気をつける必要があります。
使用前の哺乳瓶を置いた近くでこれらの食材を扱わないことと、調理後や調乳前にしっかり手洗いをすることを心がけてください。

消毒の方法は、熱を利用するものと、消毒薬を使うものがあります。

煮沸やレンチンをする場合は、熱いうちに水分を切りしっかり乾燥させることがポイントです(熱ければすぐ乾きます)。その際、内側に触れないように気をつけましょう。
外側も熱くて触るのも大変なので、食洗器の高温すすぎ乾燥モードや市販のレンジ用消毒グッズなどは、利便性がよさそうです。

ためた消毒薬でのつけおきは、私は個人的にはお薦めしません。

昭和の診察室風景でおなじみの「消毒薬が入った洗面器とそこにぶら下がったタオル」は、現在の医療現場にはなくなりました。ためた消毒薬の中で繁殖できる菌がいることがわかり、流水で洗い流すことの効果が高いと分かったからです。

また、消毒液の使用は、赤ちゃんの常在微生物叢に影響する可能性もあります。

消毒薬を使う際は、液はできる限り一回ごとに捨てて新しくする、つける前には哺乳瓶をきれいに洗い水分はペーパータオルで拭きとる(できれば乾かす)、あたりに留意したほうがよさそうです。

そもそも消毒が必要なのか、については、日本小児科学会は明確な見解を示していません。アメリカ小児科学会などは、食洗器を使うなら不要といいます
消毒の必要性を推奨する大本はWHOです。前々稿でも書きましたが、WHOの勧告は清潔な水が手に入りにくい国(地域)向けです。日本の水道事情では、きれいに洗うことの方が楽だし有効だと思います。

私の個人的な意見としては、1か月までは毎日一回程度は消毒を行い(その際、きれいに洗うことをおろそかにしないでください)、それ以降はきれいに洗って乾燥させることを優先し消毒はたまに、でいいと思います。そもそも、大人たちの使う食器も消毒はしていないですし、赤ん坊は消毒されていないものをなめてしまうものです。
最近では食洗器の値段も下がっていますし、賃貸住宅にも置けるものもあります。思い切って食洗器を導入するのもいいかもしれませんね。

緊急時など、水も熱も使えないような場合には、ペーパータオルで拭きとり、天日で乾かし、消毒薬を使うなど、臨機応変に対応せざるをえないこともあります。
どんな時もゼロリスクという訳にはいきませんし、そもそも家庭では病院なみの清潔操作は求められませんので、肩ひじ張らず(適当に)取り組んでいただきたいと思います。

哺乳瓶探しの手間

哺乳瓶の乳首にはさまざまな種類があります。大きく分けて、ゴム製かシリコン製、穴の形状や大きさも様々です。
その中から、合うものを見つけないと上手に飲めない子がいます。

簡単に特徴を説明します。

ゴムの乳首は柔らかく滑りにくいのが特徴で、お母さんの乳首に一番似ていると言われます。未熟児でも吸いやすいので、病院の産科や小児科で使われています。
と、書きたいところなのですが、最近はゴム製の乳首はあまり出回っていなくなり、私の勤務先産科もシリコン製しか手に入らなくなった(業務用)とのことです。未熟児用の小さいサイズなど特別なものはあるようですが。
ゴムはアレルギーになる人がいるせいか、熱などで劣化しやすいせいか、理由はわかりません。
一般の市販品も、薬局やスーパーには扱いがなく、赤ちゃん用品専門店などでしか買いにくいようです。

シリコン乳首は、固めで滑りやすいので、慣れないと吸おうとしても舌で押し出されてしまい、うまく飲めないという子がいます。
片や、吸う力が強くゴムの乳首が柔らかすぎて、吸う力でつぶれてしまいミルクが落ちてこなくなるような子では、シリコンの方が向いていたりします。

穴のサイズ・形も様々で、乳首の形も様々なものがあります。吸いやすくなっているものもあれば、母乳を練習するためにかえって吸いにくくなっているものもあったりします。穴に切り込みをいれたり、買いなおしたり試行錯誤が必要な場合もあります。

赤ちゃんの飲み方や月齢にあわせて、選ぶ必要があるので、やはり手間と費用がかかります

ミルクのメリット

ミルクのメリット
  • 母親以外の人でも授乳できる
  • 授乳間隔は長め

  • 母乳に不足しがちな栄養素をとることができる
  • 牛乳アレルギーの予防効果

生活面でのメリット

何と言っても、お母さん以外の人でも授乳できることです。お父さんや祖父母に預けて、お母さんは出かけたり、休憩したりできます。

ミルクは母乳より間隔があくことが殆どです。最低でも3~4時間はあけられるように、量を調整しますので。
また、1か月すぎ頃から、赤ちゃんも昼夜のリズムが出始めます。夜は赤ちゃんが寝てしまったら、起こさずお母さんも寝てしまって大丈夫です。
母乳で2時間ごとに起こされてるというような人は、寝る前だけミルクにして睡眠時間を確保することもできます。夜間の授乳をお父さんにしてもらうこともできます。

育児はマラソンです。初めの段階で疲れ切らないように、休めることは大きなメリットです

栄養面では優秀

母乳と各社のミルクを比較したサイトを見つけたので、お借りします。

厚生労働省の基準で、ミルクの成分は母乳と近くなるように規制があり、栄養素の幅は決められています。
しかし、規制の範囲内で母乳に不足しがちな成分が添加されています

母乳とミルクの違い(各社共通)
  • たんぱく質量が多い
  • 脂質と糖質量はほぼ同じ(脂質・糖質の種類は少し違う)
  • ビタミンD、E、Kなどが多い
  • 鉄、亜鉛が入っている

ビタミンKは、母乳栄養で不足しやすいビタミンとして有名で、産科の入院中からすべての赤ちゃんに飲んでもらう必須のビタミンです。出血しやすさに影響します。

ビタミンDは、骨の成長に必要なビタミンですが、近年研究が進み、アレルギー、免疫、がん、生活習慣病、月経関連症状など様々な疾患に関連することがわかってきています。
きのこの摂取や皮膚へ紫外線が当たることで生成されるビタミンですが、インドア派、夜行性、美白マニアなどの生活スタイルでは、必要量に満たない可能性が高いです。

鉄は母乳に分泌が少ないことが有名なミネラルです。
生まれたての赤ちゃんは、妊娠中にたくさんの鉄をもらい、多血状態(貧血の逆)で生まれてくるので、生直後には鉄欠乏の心配はありませんが、完母では、生後半年頃には体内の鉄の蓄えがなくなります。
鉄は、細胞のエネルギー代謝や発達に非常に重要なミネラルなので、乳児期幼児期を通じて不足を避けたい栄養素です。鉄が添加されているミルクには、大きなメリットがあると言えます。

亜鉛は比較表ではあまり違いがないように見えますが、実際は母親が亜鉛の豊富な食品を摂らないとここまで分泌しないと考えられます。ミルクの方が安定している、ということです。
前稿でも書いた通り、ミルクの少ない子では乳児湿疹の治りがよくないことが多いのは、亜鉛不足とたんぱく質不足の影響が考えられます

また、表にはでていませんが、脂肪分として「EPA/DHAなどのω3脂肪酸」を使っているミルクもあり、これも母乳では不足しがちな栄養素といえます。
ω3脂肪酸は脳の発達や炎症の抑制に関わります(参考:動物性食品は身体にわるい??:脂肪についての考察)。

ミルクとフォローアップミルクの成分の違い

前稿でも触れていますが、フォローアップミルクは「牛乳の代わりに飲むならこれ」というコンセプトの商品です。推奨月齢は必ず守ってください。

大きな違いは、たんぱく質含有量がミルクより多いかわりに、たんぱく質が牛乳成分に近くアレルゲン性が高いこと、牛乳にはない鉄分が多く含まれていることです。育児用ミルクよりも、鉄分の量は多いです。
それ以外の栄養素は、ミルクのようにバランスよく含むわけではなく、特筆することは亜鉛の添加がないことです。皮膚の状態があまり良くない子は、ミルクの方がよいかもしれません

ミルクを飲ませることで特に困らない家庭は、ずっとミルクであえて変える必要はありません。
離乳があまり進まない完母の子などは、たんぱく質と鉄分補給にフォローアップを使うのもありだと思います。

また、幼児で牛乳ばかり飲んで食事が進まない子がいます。小児科の間で「牛乳貧血」という言葉があり、そういう子はたいてい貧血です。
離乳終了後でも牛乳代わりに飲ませたり、ミルク煮など、牛乳を使う料理に使うのもいいと思います。

牛乳アレルギーの予防効果

ミルクを少量でも飲ませておくことで、牛乳アレルギーを予防できる可能性が出ています。
前稿を参照ください。

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