前稿で、古来からの日本社会のあり方に適応した日本人の発達障害性について考えました。
現代では、社会構造の変化があり、自閉傾向、多動傾向ともに生きづらさがあるため、発達障害特性がクローズアップしていると考えられます。
発達障害特性と現代日本社会の不協和を探り、楽に生きられる方法を考えてみます。

自閉的日本人のライフハック
多くの自閉的日本人が適応しやすい社会とは、日本式村社会です。
農耕の暦にあわせた変化の少ない生活、たまの「祭り」で羽目を外す以外は、決められた役割をきっちりこなすことが評価され、年功序列で経年変化は緩やかに予定調和的にもたらされるので、自分の将来像がイメージしやすい、そんな特徴があります。
日本社会をおそう変化の圧
ところが現代は、そんな日本式村社会は黒船来襲以来何度目かの、急激な変化に見舞われています。
変化の圧として最大のものは、グローバル化とテクノロジーの進歩だと思いますが、それに関連して、古いもの(ムラ的なもの)の否定や求められる人材像の変化があります。
書いていて思いましたが(特に下の2項目)、日本社会はこれを理想としながらも現実は違います。「建前」と「実際」が乖離する二重拘束となっています。二重拘束とは、相反する二つの価値観が同時に場を支配していることですが、心理的には大きなストレス因となります。
日本社会は、ムラを脱却したいと願いつつムラ的である、という二重拘束に陥っているのです。この社会に属するすべての人がしんどいのも頷けます。
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この変化の圧に加えて、自閉系の人を苦しめるのは、きちんとやることを良しとする完璧主義です。
変化に対応しようと新しい技術を学んでも、“完璧に”ものにするまでは使えない人は多いです。見切りで適当に出発することは、日本人には苦手意識がありそうです。
それで変化の波に乗り遅れ、ますますついていくのが大変になる…これは個人のみならず、日本企業にもいえる課題と思います。
変化の波をうまく泳ぎ渡る方法
かつて会った患者さんで印象的な方がいました。個人が特定できない範囲で紹介します。
30代男性、うつ病の診断で入院して私が担当医になりました。外来カルテを読む限りはかなりうつっぽい様子ですが、病棟では元気のいい印象の方でした。
本人、お見舞いに来たお母さんと話し、自閉特性のある方とわかりましたが、うつの背景がよく分かりません、本人にはストレスなどの自覚はなかったようです。
その後、上司の方との面談(本人同意)で分かりました。曰く、工場従事でしたが、非常に真面目でミスがなく上司の受けがよかったため、昇進してラインのマネージャーになったところ、調子を崩してしまった、「ずっとやっていたラインだし、同僚もみんなよく知っていて、むしろ忙しくなく、ストレスはなかったと思うのですが…」と。
本人からは「以前の仕事の方がよかった、戻りたい」との希望が聞かれ、上司はせっかく昇進できたのにと残念そうでしたが、退院後は以前の業務に戻り、その後再発もなく通院終了しました。
うつ病のきっかけとして、“昇進”はよく聞かれます。一般的には、昇進や転居は新しい環境で、初めて会う人達と関係を作ることや新しい業務に適応できるかの不安などがストレス因になると考えられますが、Aさんは少し違いました。
職場は一緒、人間関係も変わらずでしたが、業務内容が変わったのです。本人からは同僚との上下関係の悩みは聞かれず(病棟での観察では、上下関係を気にするタイプではなさそうでした、上司との関係もよさそうでした)、純粋にマネジメント業務が苦手だったようです。
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すべての方がAさんのように理解のある職場に居られるとは思えませんが、得意な業務は昇進よりも重要であるという示唆が得られます。
職人気質な仕事がマネジメント業務よりも評価されない、という別の問題はあると思いますが…。
完璧主義は諸悪の根源
私もそうですが、完璧を求めるあまり動き出せない人は多くいます。
教育でそうされたというより、日本文化のたまものとして刷り込まれているようにも思います。
刷り込まれたものを簡単に捨て去ることはできませんが、薄める方法はあります。
「完璧ではない自分を許容する」ことです。
完璧主義の何がいけないって、自分で自分を縛ることです。多くの場合、他人はあなたの完璧性をそこまで求めていません。完璧でなければいけないと思い込んでいるのは自分だけです。
なので、「まぁいいか」と適当に切り上げてみましょう。
刷り込みが激しい人ほど、「こんなんじゃダメだ」という心の声が聞こえるかも知れませんが、がんばって耐えてください。耐えれば耐えるほど、適当力がついてきます。
自分にとってあまり重要でない分野から取りくむと、やりやすいと思います。
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完璧を求める他人(多くの場合、家族や上司など支配的な立場の人)が近くにいる場合は、まずその人から遠ざかるように頑張るのが先かも知れません。
そのような人はモラハラ、親であれば毒親といえます。本人たちも同じ完璧主義で苦しんでいるかも知れませんが、同情は必要ありません。本人の問題です。逃げましょう。
グローバル化を乗り切るには言葉力が必要
語学力ではなく「言葉力(造語)」です。
前稿で書いたとおり、日本人は“察してもらう”コミュニケーションを多用します。そのため、自分の欲求や意見を言葉にするのが上手ではありません。
外国語を覚えても、そのマインドが同じならば、同じタイプのコミュニケーションになってしまう、そのことが『甘えの構造』で論じられています。
これを打破するには、自分の内面を言葉にする練習をするしかありません。
他人に向かって発するのは勇気がいりますが、心の中で言葉にするのは誰にも分かりません。「自分は今、こんな感情だ」と“言葉で”考えてみましょう。
“感情”が分かるようになると、”意思・意見”も分かるようになります。まず感情から始めるとよいでしょう。
言葉にするこつは、例えば怒りなら「自分、怒っている」と自覚することです。
状況の説明や相手への恨み、自分の正当性などの言い訳などを考えがちですが、自分の“怒りそのもの”を言葉で表現することです。
理不尽に思えようが、自分に非があろうが関係ありません。自分の感情は自分だけのものです。他人に教える必要はないので、しっかり自分で感じ、言葉で理解しきりましょう。
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そのために必要なのは、感情を表現する「語彙力」です。
感情の語彙で重要なことは、その感情を知らなかったら使いこなせない、ということです。
擬似でも構わないのでその感情を「体験している時」に覚える言葉が身に付きます。映画や小説は役に立つと思います。
また、子どもには、子どもが何らかの感情を体験している時に、その語彙を教えてあげることが有効です。
要求がかなわなくて泣いている時、「怒ってるのね」「思い通りにいかなくて悲しいのね」と言葉をかけることで、その語彙を身につけます。うまくいけば、その怒りや悲しみが収まります。
これは、まだ言葉を発しないうちから使えます。我が家では猫にもこのように声掛けをして、手ごたえを感じています。
何か言葉には、脳を制御する秘訣があるように思います。言霊の力と昔の人が言ったのもこういうものなのかもしれません。
多動的日本人のライフハック
多動症の人は、そもそも日本式村社会には馴染みにくいと考えられます。
前稿にも書いたとおり、多動症の特徴は、“好奇心が旺盛、思い切りがよい”ですが、そこから派生して、落ち着きがなく、衝動的に見える人が多くいます。
また、多動症の脳の特徴として、ワーキングメモリが小さい、つまり今やっていることを覚えているのが苦手、いくつも続けて言われたことは聞き漏らすという面があります。手足や身体の使い方が不器用な人もいます。
このあたりの特徴が、多動衝動性に加えて、片付けが苦手、忘れっぽい、散らかす・こぼす等の、社会での低評価につながりがちです。
自閉的日本人は完璧主義なため、今も昔も多動の人は日本社会では息苦しいと思います。
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しかし反面、多動の人は“本来”変化にはめっぽう強いという特徴があります。前章の自閉の人が苦労する変化の圧で、むしろ生き生きできる人も多くいます。
今の時代は、多動に有利と言えるかもしれません。
(“本来”と書いたのは、多動の人が成長する中で、周囲から矯正され変な完璧主義を身につけていることも多いためです)
多動が生きやすくなる方法
まず、“日本村”感の強い組織には属さないことが一番かと思います。
そして、変化に対応する職種・業務に就くことです。
学校までは難しいかも知れませんが、社会人になればいろいろな仕事があります。自分の興味の持てるもので、変化に対応するものであれば、上記のような低評価を凌駕する評価が得られやすくなります。
具体的に多動の人が多いと私が考える職業は、以下の通りです。
他にもあるかも知れませんがこのくらいで。業種というより業務の内容がむいているかが、重要と思います。
好きこそものの上手なれ
集中力がないといわれがちな多動の人ですが、反面「好き」なものに対してはものすごい集中力を発揮します。
なので、興味の持てない業務をいやいややることは避け、興味の持てる業務に就くことが大事です。
とはいえ、雇われだとそれは本人の意思で選べません。だから起業が向いているのかも知れません。
くさらない事
子育て場面でも言えますが、日本社会は多動系に厳しいです。
子どもは難しいと思いますが、大人になったら、嫌なことを言われる環境からは距離をおきましょう。
くさってしまうと自分で自分の可能性をつぶすことになり、非常にもったいないです。
上記にもある変な完璧主義を身につけてしまっていたら、思い切って“適当”にふるまってみましょう。仕事上など、適当にふるまえなくても、家の中など私生活では、完璧をめざさずいいかげんな状態でもあまり困りません。
できるだけ“自分にダメ出しをする”状況を、あらかじめ回避することも考えてください。
具体的には、約束をしない、片付けが必要なほどの物をもたない/捨てる、聞いたことはすぐメモる、指示は一つづつ言ってもらうように頼む、タイマーをうまく使う……など、ガジェットを利用したりいろいろな方法が考えられると思います。
依存症に注意
多動症の脳は依存症と親和的なことが知られます。本人の責任では全くないのですが、そのような特徴なので仕方ありません。
世の中に、依存症を起こしやすいものはいくつも知られています。
そのようなものに触れるときは、「自分は依存しやすい」という事を忘れないでほしいです。
特に、くさりそうになった/くさった時に、アルコールに手を出すことは多いかも知れません。適時適量を十分意識してください。
また、ギャンブルやゲーム課金、違法薬物、危険な異性関係など、興奮を伴う刺激は依存の可能性が高くなります。
そうならないように、仕事や日常業務の中で、“変化”に対応し興奮欲を満たしておくことができると思います。
なかなか思い通りにはいかないかも知れませんが、ストレス状況からは逃げ、安易に興奮刺激に頼らないように、心がけてください。
くり返しますが・・・
日本人のすべての人は、“自閉要素”を持っています。
自閉のライフハックはすべての人に当てはまる部分があると思います。
その上で、多動傾向の人は、多動のライフハックも参考にしてみてください。
コツは、自分に合った環境を選ぶことだと思います。
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