発達障害は増えているの?~増えているとすればその要因は?

自己紹介にも載せていますが、私の医師としての専門は、小児(児童)精神科になります。主に、乳幼児の成長・発達支援をしています。

療育センターで会う患者さんは、やはり「発達障害かもしれない」が主訴の方が一番多く、初診で2~4歳くらいが目立ちます。
いまや発達障害は医療用語ではなく一般用語になり、小児のみならず成人にまで適用され、知らない人はいない言葉になっています。

それだけ市民権を得た背景には、やはり、発達障害の人が増えているという実感か、自分がしんどいのは発達障害だからだ、という思いのある人が増えたということなのでしょう。

注:当記事では主に自閉系について記します。多動はまた少し別で。

発達障害は増えている?

自閉症は1940年に初めて報告され、日本での有症率は長いこと10000人に数人と言われていましたが、2000年代になり数%(100人に数人)と報告されるようになりました。
数十~百倍の増加ということですが、これは日本のみならず諸先進国もほぼ同様です。

この背景には、診断基準が変わったことや社会的認知度が上がったことの影響も強くあると考えられるので、単純にこの数字通りに受け取る必要はないと思います。

が…現場での印象では、やはり増えているのは間違いがなさそうです。子育て中の方や学校の先生は実感があると思います。

私の個人的経験:昭和の最後頃

私の個人的経験でいえば、私の出身小学校は普通の公立小で1学年4~5クラス(40人くらい)のうち、特殊学級は1クラスのみで、全学年あわせて5~6人の子しか在籍していませんでした。
特殊学級の子は半分くらいは症候性知的障害(先天性疾患に伴う)らしき、今なら特別支援学校に在籍していそうな子でした。

それ以外の子はすべて普通学級にいたのですが、1年生の時から学級崩壊をするクラスや、授業中に立ち歩く子はほとんど聞きませんでした。
つまり、発達障害らしい問題になってしまう子は学校全体でいるかどうか、という数だったと想像できます。

それが今は、1クラスに数人は発達障害で支援級を利用する子がいて、1年生の初めは担任と補助教員のふたり罹りで崩壊ぎりぎりという学級が珍しくありません。

統計的な数字がどうであれ、増えているのは間違いないと思います

発達障害は遺伝?

臨床の現場では、発達障害は遺伝である、ということがかなり強調されています。が、本当にそうでしょうか?

実は、発達障害の遺伝性が強調されるのには歴史的な意味があります。
1980年代、発達障害(自閉症)の認知度が上がってきたころ、アメリカで(日本もほぼ追従)「自閉症は母親の関りが冷たいせいでなる」と言われ、自閉症児の家族がバッシングを受ける風潮がありました。
後に、遺伝要素が強い(特に最重度のカナー型)ことがわかり、バッシングは反省され、「親の関りは全く関係ない、すべて遺伝による」という言説に(180度)変わったという経緯です。

しかし、ここに大きな違和感があります。
仮に、遺伝のせいだけならば、どうして1世代程度という短期間でこんなに増えたのか説明がつきません。

「親のせい」ではないとして、「遺伝のせい」だけでもないと考えるのが妥当です。
ちなみに、アメリカの現場はこの一歩先に進んでいますが、日本の現場はまだ「遺伝」一辺倒なようです。

同じ時期に同じように増えた疾患;生活習慣病

20世紀後半から21世紀にかけて、先進国中心に爆発的に増えた疾患が他にもあります。

タイトル通り、”生活習慣病”です。
肥満の社会問題化の推移をみると、日本はおよそアメリカの20年遅れをいっている印象があり、今経済成長中のアジア諸国は日本の20年遅れくらいをいっていそうです。

20年前ごろ、日本人の体質ではアメリカ人のような肥満にはなれない、と言われていましたが、今、街を歩くと、座席ふたり分はゆうに占めるレベルの肥満の日本人を見ることは珍しくなくなりました。多少遺伝(体質)の影響があったとしても、遺伝のみで考えるのは無理があります。

そもそも生活習慣病には”生活習慣”という言葉が使われているとおり、遺伝+環境(生活習慣)が関わることが、理解されています。

おなじ時期に同じように増えた発達障害について、「生活習慣因仮説」は十分ありうるのではないでしょうか?

発達障害における生活習慣因とは?

発達障害と特定の生活習慣との因果関係は、おそらくちゃんとした研究はされていないと思います(なので仮説)。

でも、子どもの発達・行動については、栄養、養育者とのかかわり、仲間とのかかわりなど、生理学、心理学、社会学、言語学、霊長類学などの研究がたくさんあります。

それらを参考に、発達障害に影響する生活習慣因(中でもここ20~30年で激変した)として、私が妥当だと考えるのは「栄養」「対人交流の量・質」「電子機器利用」「運動量・質」です。

これらはみな、親が何かした(しなかった)というより、社会全体がそのように変化したからと言えるものです。
実は生活習慣病についても、本人の努力が足りないからではなく、社会がそのように変化したからと考える方が、対策はとりやすいように個人的には思います。余談ですが。

こう考えると、社会を変えることは難しくても、親にできることはたくさんあるということになります。
発達障害記事では、これらを具体的にどうしたらいいか、について書いていきます

但し、「親ができること」なので、およそ思春期程度までの子を想定しています。
思春期以降の方の場合は、親が介入できるのは食事(栄養)くらいかもしれません。また、当事者の方は、できそうなところから取りくんでいただくことが可能です。

本当は、発達センターでレクチャーとかしたいのですが、なにせ「エビデンス(=研究論文)のないことは言ってはいけない」と言われる世界です。
その上「自閉症の原因は遺伝なので、仕方ない(親にできることはない)、治らない」と信じている医師もスタッフも多い…。

なので、私は発達センターの外来でこっそり(でもないか笑)、自分の担当患者さんにはこれらの生活習慣について話し、取り組んでもらっています。社会全体の流れに逆らう部分もあるので、なかなか難しいのですが、それでもいい変化をしている人はたくさんいます。そして、悪いことになった人は一人もいません。
安心して取り組んでいただけることだと思っています。

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