なぜ「先天障害」ではなく「発達障害」なのか?~発達のメカニズム

子育て

発達障害はあくまで“発達”障害であって、“先天”障害ではありません。生まれつきで「そうなる」と決まったわけではなくて、発達の過程でなりたつということです。
なので、特性に対する支援アプローチも、発達の終わった大人と、発達途上の子どもに対しては違います。

子ども期の発達のメカニズムを知ることで、遺伝特性に合わせた発達の支援ができるようになると思います。
今稿では(健常児寄り)発達のメカニズムと、次稿以降で、発達障害の特性のなりたちと支援目標について考えます。

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゛発達”という現象~遺伝と環境の相互作用

普段あまり意識して使い分けられていないかもしれませんが、子どもの発育に関する用語は整理されています。

身長・体重といった身体のサイズについては「成長」、2次性徴に代表される性機能については「成熟」、それ以外の立つ・歩く、笑う・話す、社会性からおとな仕草の獲得あたりまで゛発育につれてできるようになること”について「発達」と使い分けます。
(いわゆる「知的」な遅れや、「視聴覚など身体障害」による不利益も、広義では「発達」に分類されるので混乱がおきやすい事情はあります)

遺伝的特性

「成長」や「成熟」、また見た目やある種の病気になりやすさなどと同様に、「発達」も遺伝の影響をうけます。
これは、発達障害は遺伝しやすい(曲解して「遺伝する」と信じている人もいますがそれは違います:関連記事参照)ことの根拠となりますが、「発達」は、成長や成熟よりも「環境」の影響を大きく受けるところが、大きく違います。

関連記事

遺伝子がすべてを決定するという考えは誤りです。遺伝子が同じでも、全く違う個体になるという証拠はたくさん見つかっています。

なので、私たちは遺伝子の影響から逃れられないのは間違いないのですが、半分は親と違う遺伝子を持っているし親と違う人生を生きている以上、発達状態が親と同じになることはないのです。
遺伝はあくまで゛傾向”でしかないことを知っておきましょう。

また、遺伝傾向に環境が作用して成し遂げるのが「発達」です。
遺伝で決まってるから変わらない、という考えも誤りだと知っておきましょう。

発達に影響する「環境」とは?

上の゛関連記事”では主に栄養状態を取り上げていますが、ここでは栄養は満たされていると仮定して、それ以外の環境要素について考えます。
ちなみに、栄養はすべての細胞の働きのベースになるので、一番大事なのは言うまでもありません

「成長」や「成熟」も栄養の影響は受けますが、それ以外の面では遺伝的にかなり厳密にプログラミングされていて、本人の行動や周囲の関りの影響はほとんど受けません(虐待程ひどくなれば別)。
かたや「発達」は栄養だけではなく、主に周囲との相互作用によってなされるところが大きく違います。

では、周囲との相互作用の「周囲」とはなんでしょう?

初期の発達に影響する環境要因
  1. 感覚刺激:見る・聞く・触る・においなど
  2. 育ててくれる人、仲間との関り:言葉・感情
  3. 自分自身の感情とそれに伴う心理反応

主に養育者によってもたらされるのが1と2、本人が行うのが1と3でしょうか。
1については親子の共同作業、2については、本人の行動1と3の影響により変わるので、それぞれの要因は影響しあっています。
相互作用とはそういうことです。

初期発達のイメージ

上記の環境要因が、どう発達に影響するのか具体的にみてみます。

初期の発達のイメージ

1.感覚刺激

  • 赤ちゃんがもつ視覚、聴覚、触覚等の感覚をつうじて、外の世界の情報(刺激)が脳に入ります。
  • 脳は、その刺激をより感じ取りやすいように変化(適応)します。
  • 心地よい感覚は「好き/快」不快な感覚は「嫌い/不快」という情動が芽生え、好きな刺激を求め、嫌いな刺激を避けるようになります。
  • 心地よい感覚をくれる、不快感を取り除いてくれる(例えば゛空腹”という不快感を取り除くのは授乳です)に関心が向き始めます。

2.育ててくれる人・仲間

  • 他者に関心が向くと、視覚・聴覚・運動などの機能は、その他者のまねをするように筋肉の動きを変化させます(ミラーニューロン群)。
  • まねするうちに相手の反応から、その声・表情・運動などのメッセージ性に気づきます。
  • 自分がアクションして相手がリアクションする、そして相手のアクションに対して自分もリアクションができるようになった時、やりとりが成立します。
  • 声が洗練されて、言葉になっていきます。初めはまねです。
  • 言葉はそのことを゛体験している時”に意味が理解されます。さらに他者とのやりとり(体験)を通じて、「意味」の理解が進みます。

3.自分自身の感情とそれに伴う心理反応

  • 始めは生理的欲求だけだった情動も、他者とのかかわりの中で、複雑なものを体験します(快適な情動も不快な情動もある)。
  • 情動を体験した状況(人・場所・行動など)を記憶するようになると、状況に対する「好き」「嫌い」の感情がわくようになります。
  • 「好き」な人との「嫌い」な状況などの゛葛藤”も体験すると考えられます。
  • 葛藤に対して自分なりの解をみつけ、自分なりのパターンを作ると考えられます。好きを貫くために嫌いを我慢するか、嫌いを貫くために好きを遠ざけるか、などです。このパターンも養育者などのまねであることも多いです。

step by step:一歩一歩、発達は階段を登るようなものです。

上の章の、1,2,3はそれぞれ相互に関わりますが、「」で表した1,2,3の下位項目は上から下へおよそ順番通りに進みます

発達の階段はひとつづつ登る必要があり、先回りは意味がありません。
例えば発達の支援をする際に、先回りしていろいろやらせようとしても、その前の発達段階を経ていないと、ただのまね(ミラーニューロン段階)になってしまうという事です。

発達の臨界期はある?~シナプス刈り込みとこどもの脳

「臨界期」という言葉は、第一言語を特別な教育なしで習得できる限界年齢、というような意味からでてきた言葉です。

通常の発達でも、脳が機能を獲得するという意味では、同じ面があります。
step by stepであると同時に、ある年齢までに獲得しないと習得できなくなるという可能性があります。ただしこれは可能性の話で、実証されたものではありません。

脳には「可塑性;かそせい」と言って、例えばある回路が失われても別の回路を発展させることで機能を補うことが知られます。可塑性は高齢者でも認められるので、(栄養などの条件はあると思いますが)年齢制限がありません。
なので、過剰に心配する必要はありません。

では、なぜ言語には臨界期があるのかというと、脳の「シナプス刈り込み仮説」で説明できます。
これは、赤ん坊は脳の回路がない状態ではなく、逆に回路が張り巡らされた状態で生まれ、乳幼児期に使う回路だけを残してあとの回路はなくなっていくとされる現象です。

言語は、音声の聞き取り能力や文法などそれぞれ独特で、多岐にわたった脳の使い方をします。大人になってから、全く初めて触れる言語の音声は聞きとるのも発音するのも難しいのは、そのためです。後の章の゛漢字の認知”も似たようなメカニズムと思います。

シナプス刈り込み自体は、3歳くらいまでにおきるとされますが、言語の臨界期は7,8歳というので、実際の脳の機能獲得については、7,8歳が限界の年齢であると推測できます。

なので、発達において私が危惧するのは、電子機器の使用です。

電子機器は、感覚刺激としては視覚と聴覚に偏りすぎていて、またデジタル化した信号は自然界の他の刺激と比べて不自然です。
脳はよく使う回路を発展させて、あまり使わない回路は使いにくくなるように適応する、優秀な学習機能を持っています。大人の脳も含めて、電子機器に適応すると認知機能は偏ると考えられます。

大人の脳はすでにシナプス刈り込みが終わっていて、電子機器への適応は可塑性を利用していると考えられます。使用をやめれば元に戻ります。

しかし子供の脳が、7,8歳までに電子機器に適応した偏った認知を獲得してしまうと、将来本人が偏りを治したいと望んでも、治せない可能性がでてきます。
なので、7,8歳までは電子機器(とくにメディア)に触れる時間は短い方が、安全だと思います。

言葉が得られた後の発達

発達における言葉の役割は、抽象概念を理解する道具だと思います。

言葉の理解には「一般化」と言われる過程があります。

例えば「りんご」という言葉を、丸くて赤い果物として見て、次に黄色いカットを見て口に入れて味わう、様々な体験が「りんご」という言葉で関連付けられると、ジュースになっていても、黄緑色の果物でも、絵本の赤い丸い絵も、パソコンのマークも、それが「りんご」だと分かるようになる過程です。

この一般化によって、目の前にないものでも思考でき、想像できるようになり、もっと進むと、感情や時間など目に見えないもの(抽象概念)も言葉で扱うことができるようになります。

なので、言葉以降の発達は、いかに抽象概念を理解し思考できるようにするかが、目標になります。

言葉以降の発達のイメージ

  • 以下の1,2,3は同時進行、最終段階は4となります。1,2,3が獲得されない段階で、4の思考を行うのは難しいかもしれません。
    できなくても叱らずじっくり学ぶことを心がけてほしいです。

1.言葉を「一般化」して使いこなせるようになる

  • どのように脳が一般化を成し遂げるのかは定かではありませんが、脳は入力された刺激に反応して認知体系を作り上げるので、体験の反復とその時に繰り返し言葉を教えてもらうことが、有効と考えます。
  • 体験は、視覚だけではなく、五感+αの刺激が大切です。絵本や映像では視聴覚しか刺激されないので、一般化過程には実物が有利と思われます。

2.目に見えないものの語彙を増やす

  • 目に見えないものも、体験している時に言葉を教えてもらう必要があります。子どもと会話する大人は、会話の中に意識して「時間」「形容詞」「感情」の言葉を使うことが大事です。
  • 特に「感情」は大人同士の会話では言語化されないのが普通です。あえて、自分の感情を言葉にするだけでなく、子どもが感じている(だろう)感情を言葉で翻訳してあげることが必要です。

3.「漢字」の認知は特殊能力

  • 全く漢字に触れずに育った言語の人は、漢字を見ても「ただの絵」に見えてしまって記号としての用途をなさない、と聞きます。日本人が、タイ語;ไทยやアラビア語;عربىやシンハラ語;සිංහලなどが、文字より絵に見えるのと同じかも知れません。
  • どのようにして脳が漢字を認識するのかは定かではありませんが、脳は入力された刺激に反応して認知体系を作り上げるので、年齢の低いうちから文字としての漢字に触れるようにした方がよいでしょう(漢字にふりがなのある本など)。

4.因果推論、グレーゾーンの理解、心の理論、算数など

  • 抽象概念を扱う力が伸びてきたら、さらに高度な思考を鍛えることができます。
  • 因果関係とは、「原因」と「結果」の関係です。子どもが「なんで?」「どうして?」と聞いてきたら、一緒に原因を考えることをお勧めします。
    学校の試験ではないので、答えはひとつとは限りません。原因には、物理的なもの、時間的なもの、心理的なものなど複数あるのが普通です。
    また「この後どうなると思う?」の問いで結果を推測することもできます。
  • 世の中の事象は白黒きっちり分けられるものではなく、ほとんどはグレースケールでできています。これは概念の世界も同じです。
    「善悪」を学ぶために、子どもの世界観は白黒思考になりがちですが、どんな世界にも(善悪にも)グレーゾーンはあります。デリケートで難しい話題ですが、子どもの疑問に向き合いながら話し合う機会を持つとよいと思います。
  • 感情の語彙が増えてくると、より複雑な心の動きを感じ取ったり表現したりできるようになってきます。またその応用で、他人にも心がある事を知り、心の理論を獲得していきます。
    物語を観たり読んだりしながら、登場人物が「なぜこう考えたのか?」を想像してみるとよいと思います。これも、正解はありません。
    他人の心は想像はできるけど知ることはできない、その限界についても学んでおけるといいでしょう。

言葉の発達が進むと、あとはもう親や養育者の手を離れていく段階です。

学校に上がり、思春期に近づくと、次第に「周囲」の重要性は親から友達や同年代の子にシフトしていきます。(参考記事:のぞましい習慣を子どもに教えるにはどうすればよいか?
子ども同士で感情的なやりとりを含め、抽象概念を扱った会話を楽しむようになり、思春期になると親との会話をしなくなったりします。

思春期は、脳の発達という意味では、より抽象的な事柄が扱いやすくなる段階と言えます。
自分の内面、哲学的なこと、芸術など興味のおもむくままに思考し表現します。おそらく誰にでもある『中二病の黒歴史』はそのようにしてできあがるのでしょう。

なのでそれまでの間に、抽象思考に耐える言葉力を身につけられるように、乳児期~思春期前の「環境」を整えることが、養育者における発達を促すことと言えます。

思春期のあと

思春期の後(青年期~成人期)になると、親との会話は戻ってきますが複雑な内面はやはりあまり見せてくれないものです。親や養育者は衣食住の世話くらいでしか関われなくなることも多いです。ただし、この段階でも「栄養」はとても重要です。一緒に食事をするなら、栄養に気を使ってあげたいです。

親や養育者の手を離れていくと、友人、仲間、仕事など本人固有の「周囲」との関りの中で生きるようになっていきます。それらの「周囲」は、抽象思考を使ってお互いを高めることはありますが、基本を学ばせてくれることはありません。

子育ては大変かもしれませんが、だからこそ、思春期までの十数年はあっという間です。
子どもの発達のために、どんな環境が有用か、不要かを見きわめていってほしいと思います。

次稿以降、発達障害特性について、具体的にみてみます。

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