発達のメカニズム~多動傾向のなりたち

子育て

過去稿でも触れましたが、私は、日本人はグラデーション的には全員が自閉症の遺伝傾向を持っている、またその中で多動症の遺伝傾向のある人は臨床域で数%、グラデーション的には数十%くらいと考えています。

なので゛普通に”育てても多少の特性が現れるのは当然です。

育ての目標は「特性を消すことではなく、社会に適応しやすい大人になること」が、よいと思います。
それでも、適応するかしないかは本人次第ですし、社会の側の要因にもよるので必ず適応するとは言えないのが難しいのですが。。

発達特性のなりたちを知ることで、何をどう支援する、育てるといいのかを、理解できるといいなと思います。

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多動傾向のなりたちと支援の方向性

まず、箇条書きしてみます。

多動傾向のなりたち

  • 持って生まれた特性:好奇心が旺盛、思い切りがよい、好きなものに過度に集中
  • 特徴的な赤ちゃんになる:暇だと不機嫌、寝ずに遊ぶ、誰にでも愛想がいい、言葉・運動の発達は早め…
  • 特徴的な子ども:落ち着きない、よくしゃべる、制止が効かない、迷子…
  • 多くの場合、よく叱られながら育つ ⇒反抗的態度、自尊心の低下
  • 成長につれて、自制力(前頭前野機能)がつくと、人前での失敗が減ってくる、特性を有利に生かせるようになる ⇒社会適応

”持って生まれた特性(生理的特徴)+育児環境による経験”から、副次的に心理的反応が生じてくるところは、自閉傾向と同じです。
しかし、自閉傾向と違うのは、幼少期は「特性」そのものが問題になりやすく、長じると周囲との関係の中から生じやすい心理的反応が、特性の予後に影響しやすいところです。

多動児とは子供らしい子供

多動症の持って生まれた特性とは、好奇心が旺盛、思い切りがよい(決断が速い・我慢が苦手)、好きなものに過度に集中するという性質と言えます。そのため、多動衝動的な行動、不注意と過集中といった状態が現れます。

そもそも子どもは好奇心が旺盛です。
前述の通り、五感をつうじて脳にインプットされた刺激が脳を発達させるので、子どもの好奇心は本能行動とも言えるでしょう。「知りたい」という欲求は知性を伸ばすためにも重要です。

また、興味関心のあるものに向かい、そこへ思い切りのよい決断の速さと我慢の苦手さが絡むので、「好きなものは大好き、嫌いなものは大嫌い」となり好き嫌いがはっきりしているという評価をされがちになります。

ただしここで関わってくる「我慢する力」とは、大脳皮質のうちの前頭前野という部分の機能です。
前頭前野は、脳の発達の最終段階、およそ7,8歳~20代前半にかけて発達します。
つまり、すべての子どもは前頭前野が未熟なので、多動症の子のみの問題とは言えません。

そう考えると、多動症特性とは゛好奇心が旺盛すぎる”と゛好き嫌いがはっきりしすぎる”ところと言えますが、これは゛子どもの特性”が少し極端なだけで、子供らしすぎる子供と考えられます。

これらの性質をもった子供らしすぎる子供は、赤ちゃんの頃から周囲の子と違う(異常という意味ではなく)と思われがちです。

多動気味の乳児

  • あまり寝なくて泣いてばかり
  • かまってあげたり連れて歩くとすごく楽しそうにする
  • 人見知りせず誰にでも愛想よくする
  • 言葉、運動の発達は早め

多動気味の幼児

  • よくしゃべり、よく走る
  • 移動できるようになると迷子になりがち
  • 欲しいものはためらわない(粗暴行為や道路への飛び出しなど)
  • 嫌なことは全力で拒否
  • 興味のある事しか注意が向かない(話を聞かない、生返事など)
  • 興味のある事に熱中すると、他の刺激に反応できない

乳児幼児共通して、好奇心が旺盛すぎ・好き嫌いがはっきりしすぎと考えると理解できる行動です。
総じて、愛想がよく人懐こい元気のいい印象の子が多いです。

日本のような社会ではこのタイプの子は、特に集団生活に入ると「問題児認定」されがちになります。
おそらく社会の側に「子どもなんてこんなもの」という寛容さがあった時代には、問題にならなかったかも知れませんが、今の社会は子どもに大人のふるまいを求めるので、子どもも保護者も肩身の狭い思いをしがちとなります。

多動症の副次的な心理的問題はそこから生じます。

叱られまくった結果…自尊心の低下

叱る子育てより褒める子育てがよい、という言説を知らない人は少ないと思いますが、多動症気味の子の場合、まさにその影響をもろに受けている子が多くいます。

多動気味の子は集団生活以前から叱られまくっていることが殆どです。
親(養育者)にしてみれば、いう事は聞かない、危険な行動はする、何度言っても覚えない、反省が続かない(悪びれない)など叱らずにはいられない子なので、仕方ないのだと思います。

どのくらい叱るか、どんな𠮟り方をするかは、親子のキャラによっても違うのですが、集団生活が始まると否応なく他の子ができることができない、と評価されるため、本人の自尊心は下がってきます

受診する幼児でもたまに、小学生なら100%自尊心が低いと言ってよいと思います。

子どもの自尊心の低さは、大人とは表現が少し違います。

あまり自信がなさそうにはしないかわりに、反抗的になることが多いです。
反抗は、「あんたのことは信用しねー」とばかりに睨んだり、返事をしなかったり、わざと粗暴なことをしたり、からかったり、大人を怒らせようとしたり…いろいろな形で現れます。

もともと人懐こく愛想がいいし長続きが苦手なので、だいたいの子は話していると人懐こさが見えてきます。幼いうちは反抗と人懐こさがコロコロ変化する子もいます。

この自尊心の低さの何がいけないかというと、多動症としての予後に大きく関わることです。

自尊心が低いと前頭前野が鍛えられない

上で発達の最後の段階と書いた前頭前野は、他の動物と違いヒトで特に大きく育っている脳の部分です。
つまり、動物と違うヒトらしさ=高次脳機能の多くを担う脳の部分と言えます。

具体的には、自制・我慢する力(価値の判断と意思決定力)、ワーキングメモリと実行機能(計画を立てて順序・系統だって何かを行うことと、その過程を頭に入れておく超短期記憶)などです。

前頭前野は、感覚入力など原始的な脳の機能の発達の後、7,8歳ごろから20代前半くらいにかけて発達すると考えられています。

前稿;発達のメカニズム~自閉傾向のなりたちでも書いたように、発達は脳のその回路を使うことで成し遂げられます。
前頭前野については、7,8歳~20代前半の年代に上に書いたような゛高次脳機能”を使うことが重要になります。

しかし、自尊心の低い子ども(多動児に限りません)は、「どうせできない、叱るんでしょう?」「やったって無駄」「やってやらない」などのマインドとなり、自制を働かせたり、難しい課題に取り組んだりすることを避けがちになります。
これは「前頭前野の発達しにくい要因」となります。

不注意傾向が強ければ言語の発達も遅れる

好奇心が強く、好きなものに向かっていく多動傾向の子の特徴は、興味のないものに関心をむけない゛不注意”として現れます。
この不注意が強い時に生じる問題が、コミュニケーションの発達の遅れです。

前稿で、言葉、コミュニケーションが脳への感覚入力の結果発達することを考察しました。
とすると、感覚認知に問題がなかったとしても、人や声に注意が向かなければ発達は進みにくいと考えられます。

人や人との関りに興味のある子は言葉の発達が早くコミュ力の伸びもよい反面、人ではないものに興味の向く子はコミュ力が伸びていないことがあります。
この辺が、自閉と多動の鑑別の難しいところと個人的には思います。

なので、多動症の子も前稿の自閉症の子と同じように、コミュニケーション力を伸ばせるように養育者が意識して関わった方がよいと思われます。

自閉症気味の子と違って多動症の子は、好奇心が強すぎるのが特徴です。その性質をうまく使うのがお薦めです。
本人の興味のある話題、興味のある事柄に一緒に参加することです。元来人懐こいので、興味を持ってくれる人にはたくさん話をしてくれます。自分語りで人の話を聞かない傾向が強いですが、興味のある話題でうまく質問をふるなど、やりとりになるように工夫してみるとよいと思います。

多動症のよくある問題と支援目標

多動症支援の問題は、生理的特徴による行動を含め心理的反応までもが過小評価され、本人の「やる気のなさ」「駄目さ」として見られがちになるところだと思います。
当然そこに、゛精神論的指導”がなされても意味がないばかりか害になる可能性があります。

多動症治療の目的は自尊心を下げないこと

多動症の育児・治療目標は、多動の特性を消すことではありません。
発達は成人した後まで緩やかに続く長い過程です。その発達をできるだけ滞りなく進められるように、環境を整えることが重要です。

病院での治療でも、本来この目標が一番優先されます。(思春期以降では2次障害の対応に追われ目的が見えにくくなりますが…)

病院での多動症の治療は、主に薬物療法と親ガイダンス(多動症のしくみを学び環境を整えるアドバイス)、親トレーニングなどです。

ADHD治療薬使用時のポイント

特に、小児の薬物療法は特性があるからと漫然と行うものではありません。
(児童精神科を専門にする(学んだ)医師が少ない中、ADHD治療薬を処方する医師はたくさんいるので、このあたりがきちんと運用されているのかは少し疑問です)

治療薬には前頭前野を働きやすくする作用があります。それで、本人が今まで「自分には無理だ」と思っていたことが少しやりやすくなります。
その変化をしっかりと自覚してもらって、「自分にもできる」という自信をつけてもらう事が重要です。

そのためには、薬を飲ませて終わりではなく、できるようになっていること、やれていることをきちんとフィードバックしましょう

きっちりと゛下がった自尊心をあげていく子育て”ができると、多くの子は小学校高学年くらいで薬なしで登校できるようになります。

中学以降は、勉強の難度が上がったりするので、本人が必要と判断すれば投薬再開したりもします。
多動症の成人と同じように、本人の社会的事情と合わせてうまく薬と付き合うようになれば御の字ということです。

褒める子育てのポイント

さて、投薬だけで自尊心が回復するわけではありません。
ここで、叱らない褒める子育てが効いてきます。

といっても、日本人は褒められずに育った人が多く、褒めるのが下手な人が多いようです。
また多動症の子は抑制が難しいのが特徴で、つまり、褒められると調子に乗りすぎ収拾がつかなくなることがよくあります。

なので私は、゛褒める”より゛承認欲求を満たすこと”をお薦めします。
褒め方、叱り方は別稿にしたいと思うので、簡単に紹介すると、言葉で褒めるのではなくて笑顔をむけるということです。
親がにこにこしていれば、子どもは勝手に承認されていると感じます。

とてもにこにこできる心境じゃない、という人もいると思いますが、大丈夫です。

口角の筋肉は気持ちと関係なく動かすことができます。がんばって口角をあげましょう
実は、表情筋と感情には不思議な関係があって、その気持ちだからその表情になるだけではなく、逆に、その表情だからその気持ちになる作用もあると言います。口角をあげると嬉しい気持ちになりやすいということです。

気が付いたら口角をあげる、まずはそれを意識してみてください

多動症のほめ方叱り方は、親トレーニングでも学べます。

このプログラムは、多動症児の養育者を対象にした集団療法で、どの施設でもやっているわけではない(むしろやっていない施設の方が大半)のですが、書籍もでています。
集団療法のマニュアルとして発行されていますが、褒め方叱り方、指示の出し方(行動のやめさせ方)など、内容は参考になるところも多いと思います。お勧めです。

Bitly

多動症と栄養:鉄分不足に注意を

自閉症ほどではありませんが、多動症も栄養不良の影響をうけていると考えられます。
主に足りないのは「鉄分」です
鉄分不足で影響をうけるのは、脳のエネルギーの不足と神経伝達物質の不足と考えられます。

成人でも同じですが、栄養が足りないと脳は省エネモードになり、前頭前野の機能は後回しになります。

これは、多動症様の症状が出やすくなるということです。
なので、栄養をしっかり満たすことだけで多動衝動性が消える子もいます。(が、それは発達障害と言えるのかどうか微妙な気がします)

日本人のほとんどの子は鉄分不足です。
落ち着きがないと思ったら、まずは市販の鉄分が添加された食品でもいいので鉄分補給をしてみるとよいと思います。赤身の肉やレバーを食べるのもよいでしょう。

ただ、鉄分で自尊心が高まることはありません
栄養を取ることは子どもの発達のベースラインに乗ることです。発達に必要な環境は、別途整えてあげることも必要です。

学校…

多動症の人の人生にとって、一番の難関は学校、特に小学校かもしれません。

最近では、先生方の知識も上がってきていますが、少し前までは、多動症の子は「不真面目な生徒」とみなされ、発達障害とは考えられていないことをよく経験しました。
学校から「多動症だと思う」と言われて受診する子はほぼ自閉症で、本当の多動症は親が「多動症ですか?」と言って受診するという感じです。

自閉症の子と違って、多動症の子は゛わかってるのにできない感”があります。
それが先生には「わざとやらない」ととられがちな上に、反抗的態度もあれば「悪い児童」認定されてしまいます。

もし、学校でうまくいかないとか、トラブルが多い場合は、専門の医療機関に受診してみるのもよいと思います。診断云々というより、問題点が整理されるだけでも、利点があります。

多動症の子の学校でのライフハックとして、主なものを紹介します。

  1. 席は一番前:注意がそれにくい
  2. 持ち物には全部名前を書く:なくしても戻ってきやすい
  3. 好きな科目はとことん:過集中がはまると伸びる
  4. クラスに似たタイプの子がいると相乗効果になってしまう:なので支援級を使うかどうかはメンバー次第な場合がある
  5. 先生の話を「聞く」「書く」が同時にできない子:連絡帳など聞いて書くのが難しければ、板書してもらうようにお願いする
  6. 漢字を書くのが苦手な子:診断をもらって、書き取りを少し免除してもらうことも

基本的に学校での対応に診断は必須ではありませんが、6は教科内容の問題なので、診断があった方が対応はしてもらいやすいと思います。

くり返すと、多動症の特性は゛子供らしさ”です。多動症の子にわかりやすい対応は、他の子たちにもわかりやすい対応です。
「その子だけ特別扱い」を嫌がる学校も多いですが、その子だけではなくすべての子が学びやすい環境を整える工夫と、とらえていただけるといいなと思っています。

親子が似ているがゆえに起きる問題

自閉傾向もそうなのですが、多動傾向はなおさら、親子の間には葛藤があるのが普通です。
親が自分の欠点だと思っている部分を、子どもの中に見つけたりすると無性にイライラするものですし、それは自身がこどもの頃叱られまくった事柄だったりします。

多くの場合、感情に任せて叱りがちですが、それでうまくいくことはあまりありません。
無理せず、親ご自身がセラピーを受けた方がよい場合もあります(私のオススメはボディートークです)。多動傾向が明らかであてば、受診するのもよいと思います。

パートナーが子どもとそっくりで、激しく当たっているというケースにもわりと出会います。
子どもの自尊心をあげる対応を、パートナーにも適応し、必要そうなら受診をすすめることになるでしょう(難しい問題ですが…)。

親自身も、栄養不足でイライラしたり、自分の問題で頭がいっぱいの時は、うまく関われなくても仕方ありません。自分を後回しにするより、先に自分の問題を解決した方がよい場合もあります
特に栄養は、出産したお母さんはその分の補給も必要ですし、親の脳の活動(寛容力など)にも重要です。

そもそも日本人女性は、たんぱく質・鉄分などが不足しています(参考;栄養とれてますか?
親子での栄養摂取に取り組んでみてほしいと思います。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方

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