小児科的にみた母乳育児とミルク育児ですが、両者のいいとこどりをできる方法が「混合栄養」だと、私は思っています。
多くの小児科医の意見は、出るなら母乳でいいし、出ないなら無理せずミルク使えばいいよ、というものです。
気張らず肩ひじ張らず、適当に、取り組んでほしいと思います。
授乳の原則・優先順位
赤ちゃんから見て、授乳の何が重要かを考えます。
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まず、これらの項目が満たされるように授乳をすることが、「目的」となります。
以下は、目的を達成するための、「手段」といえます。方法または条件ともいえます。
最後は、「結果」です。
間違えてほしくないのは、結果と目的とをはき違えないことです。
えてして授乳は、親の満足や理想が優先されがちですが、満足は結果として得られるものであって、あくまで目的は「赤ちゃんの健康」です。ここに集中してください。
親が満足するために子どもの健康を犠牲にすることのないように、してほしいです。
育児負担を減らすことが重要
「手段」の項目の中で重要なのが、育児負担を減らすことです。
負担には、金銭的な負担、身体的な負担、心理的な負担などがありますし、お母さんの負担、お父さんの負担、きょうだい等の負担もあります。
これらの家族のなかにある様々な負担を、「最大公約数的に減らす」ことを考えてください。
当然、母乳はたくさん出るのか少ないのか、家族の支援はあるのかないのか、分娩にかかったお母さんの身体的負荷、赤ちゃんの飲みっぷりなどによっても変わるので、家族の数だけ正解があります。
よその家のやり方と同じでなくてもいい、ということです。
混合栄養の方法
育児にまつわる負担を最大公約数的に減らしつつ、赤ちゃんが健康に育つという目的を達成するために、注力すべきポイントをいくつか提案します。
母乳をあげること
経済的負担、愛着形成、お母さんの満足などに大きく関わる「母乳をあげること」は、特別な理由のないかぎりは、まず試みてほしいことです。
ただし、身体的(または心理的)負担が大きすぎる場合は無理をしない方がいいし、赤ちゃんの発育(体重の増え)がいまいちなら、ミルクを足すことをためらわないでください。
赤ちゃんが乳首を吸うことにより、ホルモン:オキシトシンやプロラクチンの分泌が促され、母乳の分泌量が増え、子宮の収縮が促進し、親子の愛着形成に役立ちます。
また、母乳をあげていると月経の再開が遅くなります。妊娠分娩で失った鉄分やたんぱく質を取り戻す有効な時間となります。
睡眠時間の確保
お母さんの体力を回復するうえで、睡眠は重要な要素です。
もともと、母親の身体は妊娠中から生体リズムの変化で断眠がちになり、夜でも長時間続けて寝るということが難しくなっています。これは、赤ちゃんのお世話をするための適応的変化とされているので、眠りにくいこと自体は仕方のないことです。
なので逆に、日中でも短い時間でも、眠れるときは寝るというしぶとさを発揮してください。
分娩から日数がたってくると、また眠りやすくなってきます。赤ちゃんの側も、1か月ごろから昼夜のリズムが出はじめるので、それに合わせて夜間の連続睡眠時間を伸ばしていければ、御の字です。
そこでお薦めしたいのが、寝る前のミルクです。
一般的に母乳栄養の場合より、ミルクの方が授乳間隔が伸びます。たくさん飲ませて長く満足していてもらうことができます。
夜間、赤ちゃんを起こす必要はないので、寝られるだけたくさん一緒に寝てしまってください。朝方、赤ちゃんが欲しがれば母乳でしのぐ、起きてミルクを作るよりは身体は楽かもしれません。
これは、母乳で十分体重が増えている場合でも、夜間授乳が必要なら試してみてほしい方法です。
ご家族の協力が得られる場合、眠前や夜間のミルクをかわりにあげてもらって、その間お母さんは寝るということも可能です。お父さんと夜間のシフトをくんでお互いに休むということもしやすくなります。
授乳が足りているかの目安
これらを総合しての判断となりますが、一番の目安は「体重」です。
体重が増えていなければ、何か疾患があるか、栄養が足りていないかのどちらかです。特別の疾患がないならば、授乳の間隔が長くても、母乳外来で母乳の「量」は足りていると言われても(*)、ミルクを足して(増やして)栄養を補充してください。
逆に体重が増えていれば、間隔や授乳時間の長くても、親の負担感がなければそのままで大丈夫です。負担が大きいならば、ミルクを使うなり、授乳方法を工夫して改善することも期待できます。母乳外来などで相談してもいいと思います。
(*)母乳外来で母乳が出ているか測る方法に「母乳測定」という方法があります。授乳の前後に赤ちゃんの体重を測り、差を計算する方法です。
この方法では母乳の「一回量」は測れますが、本当に必要な情報は、赤ちゃんが育つのに必要な「栄養」がみたされているかです。一回量はあっても、月齢なりに体重が増えないなら意味はないということです。
ミルクの足し方の具体例
実際には、1,2どちらかではなく、どちらもになっても大丈夫です。
気をつけるのは、ミルクの回数が1日8回より多くならないことです。ミルクの後は赤ちゃんが3~4時間は満足できるくらいの量を足していれば、計算上8回以上にはなりません。
もちろん母乳だけの後は間隔が短いこともあるので、全体の授乳回数は8回より多くても大丈夫です。
母乳が足りていてもミルクをすすめる理由
私は、完母で体重が順調でも1日1回程度はミルクをおすすめしています。理由は以下の通りです。
睡眠の確保の章で書いた通り、夜間の授乳が負担な人は、寝る前のミルクを足してでも睡眠をとってもらった方がいいです。
育児は授乳だけで終わりではありません、むしろ、その後の方がこどもが動き回り親の体力が要求されます。授乳で燃え尽きないようにしてほしいです。
また、母乳編・ミルク編で書いたとおり、母乳だけでは不足しやすい栄養素があります。
離乳食で補ってもらってもいいのですが、思うように食べてくれないこともざらです。せめて、離乳期にはミルクをサプリ代わりとしてでも使う方が、栄養的には安定しやすいです。
哺乳瓶に慣れてもらう、という意味もあります。これはリスク管理です。
災害があったり、お母さんが病気などで授乳できなくなることもありえます。「哺乳瓶を受けつけないから飲めません」では済まないのです。「この哺乳瓶ならいける」を見つけておくことは重要です。
牛乳アレルギー対策としてもミルクを飲んでいた方が有利と考えられます(参考:母乳育児のメリットとデメリット)。
ライフスタイルの選択に応じて
いろいろ書きましたが、赤ちゃんの体重が順調な限り、何が家族にとって楽かを基準にしてもらえばいいのです。
特に母乳をあげている場合は、お母さんの都合が一番大事です。
母乳分泌の量だけでなく、体力・気力・眠気、家族の協力状況、職場復帰の都合や、きょうだいの世話、介護があるかなど、家庭によって、お母さんによって事情はさまざまです。
要は、たまに測る体重が母子手帳の図の帯に沿ってればいいので、気張らず適当に取り組んでみてください。
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