鉄分について、
につづき、鉄分の摂取の考え方を書いてみます。
また、一部ネット言説で「フェリチン値が高くなるのは危険だ」というのを見ますが、これは誤解です。フェリチンの意味についても解説します。
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結論から言うと…
- 月経のある女性と成長期までの子どもは、積極的に鉄分補給を考えた方がよいでしょう。
鉄分入りの食品や、鉄剤の利用も考えます。
同時にたんぱく質もしっかりとる必要があります(参考;親と子のたんぱく質の盛り方)。
- 成人男性と閉経後の女性は、偏食なく(特に肉類)食べていれば、あまり鉄を意識しなくてもよいでしょう。
体が冷える、イライラしやすいなど「鉄分不足と思われる症状(参照;鉄分の重要性)」がある場合は、鉄不足またはたんぱく質不足または両方を疑います。
どちらかといえば、現代日本人ならばたんぱく質不足の方が深刻なので、まずたんぱく質を増やすことを優先してください。
日本人の鉄不足の実際
鉄分神話の崩壊
「日本の伝統的食事では鉄分は不足しない」という神話が長く信じられてきましたが、その説は間違っていたことが分かりました。
それに伴い、厚生労働省も国民への啓発として、鉄分の重要性を発信するように変わってきているようです。
いずれにしろ、現在の日本で売られている野菜からは、十分な鉄分をとるのは難しいでしょう。
外国と日本の鉄分事情の違い
それは、こちらの書籍に詳しいです。
先進国から途上国まで、鉄分不足の問題は古くからの公衆衛生課題でした。
なので、現在でも多くの国で国策として、小麦粉や醤油などの生活必需品に鉄が添加されていて、国民の鉄不足を防いでいるそうです。
また、離乳初期から鉄分摂取を積極的に薦める国も多いようです。
でも、日本は違います。日本には“鉄分神話”があったため、鉄分政策はありません。公的に食品に鉄が添加されているのは粉ミルクくらいでしょう。
そうこうしているうちに、農業や調理器具が大きく変化して、鉄分不足の状況が悪化しているのが今の問題です。
ただし、ひじきショック事案以降、厚労省も鉄やたんぱく質摂取を増やす方向に舵を切っているようです。これからは、鉄やたんぱく質摂取の発信も増えてくると思います。
民間企業はすでに、鉄分やたんぱく質を強化した食品を増やしています。選択の幅が広がってきているのは良いことだと思います。
鉄分の盛り方
くりかえしますが、鉄分は小腸で゛たんぱく質と結合して”吸収されます。
たんぱく質をしっかり摂り、消化吸収できることが、鉄分摂取のファーストステップです(参考;親と子のたんぱく質の盛り方)。
これは特にサプリを利用する場合は気をつけてください(理由は下記に)。
初めは、色んな食品から、たんぱく質と一緒に取るのがよいと思います。肉魚は優秀食材です。
鉄分の多い食品
これらの中では、肉・魚・豆・豆腐が優秀といえます。理由は…以下(注意したいこと)です。
一回にたくさん食べられるという意味で、肉・魚・豆類あたりが優秀ということです。
鉄分を添加した食品の利用
厚労省や文科省が方針変更途上の脇で、一般企業の動きはもっと早いようです。
スーパーで普通に売られている食品の中にも、鉄分添加をうたうものが増えてきました。
牛乳、ヨーグルト、ジュース、プロテイン飲料などの乳製品や飲み物に多いようです。
瓶やパックの離乳食にも添加されるようになっています。
鉄は化学記号が“Fe”ですので、そのようにパッケージに書いてあったりします。
また、鉄添加食品としては、育児用ミルクやフォローアップミルクもよいです。
特に、フォローアップミルクは鉄分の少ない牛乳の代わりとして開発された経緯があり(参考;ミルク育児のメリットとデメリット)、育児用ミルクより鉄分量が多くなっています。
赤ちゃんでなければ、溶かした後冷やして飲んでもかまいませんし(ミルク類は必ず70℃以上の熱いお湯で溶かしてください;サカザキ菌Q&A)、ミルク煮、ミルクがゆなどの料理に使うのもオススメです。
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パッケージの後ろを見ると、鉄分の含有量が分かります。鉄:○○mgなどと記載されています。
商品1個(1袋など)中の場合と、製品100g中の場合があるので、気をつけてみてください。
鉄○○mgは、鉄分をどのくらい摂ったらいいかの目安になります。
気をつけてほしいのは、特にジュースなどの甘い飲料ですが、鉄を摂取しようとしたあまりに糖分量が多くなっては、健康効果が落ちてしまいます。
甘くない食品(ミルクなど)や、次に紹介するサプリを優先した方がいいと思います。
鉄分サプリ
これは最近よく知られてきていることですが、現在、国内で市販されている鉄製剤の多くは、サプリ処方薬とも、クエン酸第一鉄(フェロミア)や硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)、ピロリン酸第二鉄(インクレミンシロップ)などの無機鉄化合物です。
ヘム鉄のサプリもありますが、かなり割高です。ヘム鉄は無機鉄よりも吸収がよいのが売りですが、それは食事で食べるときの話で(鉄分の多い食品参照)、サプリとしては値段が高いことは大きなデメリットです。
一方、アメリカで一般に市販されている鉄剤は、アミノ酸キレート鉄と呼ばれ、無機鉄よりも吸収力が高いとされるものです。
アメリカはサプリ先進国で、消費者の目も肥えているため、品質が高く安価な製剤が多くあります。ネットで簡単に個人輸入ができますので、市販のサプリならばアメリカ製をお薦めします。
*iHerbやサプリンクスなどのサイトが有名です。日本語で注文できます。
カプセルや錠剤、徐放製剤(ゆっくり溶けて吸収する)、グミ、チュアブル(ラムネ状)など形も、鉄の含有量も様々な製剤があるので、自分に合ったものを見つけてみるといいと思います。
Now Foods;ironなどは日本でもよく売れている商品です。日本語の口コミも参考になります。
鉄で気持ち悪くなりやすい人は…
鉄のサプリや処方薬の飲み方として注意点は、気持ち悪くなりやすいことです。
これは特に、たんぱく質摂取量が少ない(胃腸の粘膜がよわっている)人でおきやすいようで、男性ではあまりない副作用です。
BUN値ひとケタの人などは、鉄の前に、たんぱく質を盛る事を優先してください。
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- 気持ち悪くなりにくい飲み方は、空腹で飲まないことと、少しづつ飲むことです。
食事と一緒(または直後)に飲むこと、1日何回かに分けること、または鉄含有量の少ないものを使うか、少しづつ溶けてゆっくり吸収する製剤(徐放剤)を選ぶなどしましょう。
- 裏技として、サプリを食事(水分)に混ぜる方法があります。
脱カプセル(カプセルの中味)や錠剤を溶かすことで、少ない量を何度にも分けて飲むことが可能です。子供に飲ませるにもおすすめです。
上記のNow Foodsのサプリをみそ汁に入れてみましたが、よく溶けて味は殆ど変わりません。
麦茶に入れても変わらないようです。お茶は鉄瓶で沸かしたお湯で入れた方がおいしいので、鉄剤と相性がよいと思います。
溶かしたものを何度にも分けて飲む、お茶ならば1日かけて少しづつ飲むことができます。
鉄の注射薬の注意点
医療機関から処方薬の鉄剤が吐き気で飲めない時、往々にして鉄の注射が行われます。
前稿に書いた通り、鉄には毒性がありますが、それが問題になるのがこの注射です。
鉄は胃腸から吸収される限りでは安全な物質ですが、注射の場合は、鉄のイオンがたんぱく質と結合しない状態で直接血中に入ります。これは、活性酸素の毒性をもろに受ける形の治療です。
貧血がシビアで内服ができない時には仕方ないので拒否しないでほしいですが、漫然と続けることのないようにしたいところです。
上に書いた通り、吐き気はたんぱく質が足りないサインなので、たんぱく質をしっかり盛ってほしいですが、医師からそう指導されることはほぼありません。
自分で考え、たんぱく質を取り入れるように頑張ってみてほしいです。
鉄剤が飲めなくても、鉄添加の食品なら摂れたりします。肉魚豆腐なども少しづつ取り入れてみて、気持ち悪くならずに鉄剤の飲める身体をめざしましょう。
内服ができるようになれば、医師は鉄を内服薬に切りかえてくれます。
鉄分の摂取量
前述のとおり、鉄分は小腸でたんぱく質と結合して吸収されます。ヘム鉄と非ヘム鉄は吸収のされ方がちがいますが、たんぱく質が鉄を細胞内に取り込むのは同じです。
そこには、鉄が不足していればたくさん、鉄が十分あればほんの少しとなるようにたんぱく質によって調節されるシステムがあります。
特殊な疾患がないかぎり、内服の鉄分で活性酸素の害を受けたり、鉄が過剰になることはありません。
フェリチンは危ないという誤解
貯蔵鉄フェリチンの基準値についてはこちら(鉄分・貧血に関わる検査データのよみ方)を参照ください。
貯蔵鉄;フェリチンは細胞の中にあり、さまざまな鉄利用にそなえて貯蔵されています。
一番の鉄利用先は赤血球(ヘモグロビン)です。
なので、フェリチンは赤血球づくりへの利用が優先され、低フェリチンになっても、見かけ上貧血とならないという現象が起こりえます。巷では、貧血のない鉄欠乏を「隠れ貧血」と呼んだりもしています。
つまり、一般的な貧血検査で貧血になっていないからといって、安心はできません。フェリチンを検査しないと分からないこともあります。
血清フェリチンとは? 細胞内フェリチンとの違い
細胞の中に蓄えられているフェリチンですが、細胞を取り出して中味を調べる検査は容易ではありません。
なので、検査では簡易的にとれる血液(血清)の中のフェリチンを測ります。それが血清フェリチンです。
医学的には血液は、血管内皮細胞が作った管の中の液体で、細胞の外にある細胞外液の一部です。
ちょっとややこしいですが、血清フェリチンとは、細胞内から血液中に漏れ出たフェリチンを測ることで、間接的に細胞内のフェリチン(鉄の貯蔵)をみる値です。
血清フェリチンが高いというのは、“貯蔵鉄が十分にある”という意味と、“身体のどこかに炎症がある”という両方の意味があるのです。
鉄剤は危険? 医師も間違える謎
ネット上には、鉄剤を飲むのは危険だと煽るサイトがあります。
医師を名乗る人が書いた文章を読んだことがありますが、基本的な誤解があるように思います。
上述の通り、鉄の注射薬には危険がありますし、一部の代謝疾患で鉄が身体にたまりやすい人がいるのは確かですが、通常は内服の鉄に危険はありません。
また、過剰にならないように、身体が吸収量を調節します。
内服の鉄は安全性の高いサプリです。
では何が誤解かと言うと、「フェリチンが上がると炎症が起きるので危険だ」という言説です。
炎症で血清フェリチンは高値を示しますが、フェリチンが炎症の原因ではありません。
相関関係と因果関係を取り違えています。
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また、「鉄剤はカンジダ菌を増殖させる」という説もよく見かけます。
その節の真偽は…少なくとも医学書レベルではなく俗説の域をでないと考えられます(間違っている、とは断定できませんが)。
でも仮に、鉄剤を飲んでカンジダ菌によると思われる胃腸症状がでたとしても、それは鉄のせいではありません。
必須栄養素の鉄が悪いのではなく、鉄の吸収がよくない、腸内環境がよくないという身体の側の問題です。
鉄剤で、吐き気をはじめ、便秘、下痢、膨満感など胃腸の不調の副作用があらわれる事は珍しくありません。
解決策は、上の吐き気の項と同じで、たんぱく質をとり胃腸粘膜の状態をよくしていくことと、それまでは少しづつ頻回に飲むこと、という地味な方法です。
鉄の飲めない体質を治せる魔法のサプリなどはないと思ってください。
腸内環境をよくすることにはこちらも参考にどうぞ ↓
記事中でも触れていますが、カンジダ菌は糖質が大好物です。
たんぱく質を増やすと同時に、糖質を減らすこともまた重要です。
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鉄は必須栄養素の中でも、トップクラスに重要な栄養です。
フェリチンを上げるのは危険だ、鉄剤は危険だ、という言説を見ても、気にする必要はありません。
フェリチン値の読み方の注意点
貯蔵鉄が増えてくると血清フェリチン値も上がってきますが、炎症がある場合にも血清フェリチンは上がります。
高くなってきたフェリチン値を見て、どっちだか判断するのは難しいかもしれません。
私の勤務先産科で妊婦さんの血液検査の結果をみると、妊娠初期(ほとんどの人は貧血気味で鉄剤とってない)でも、10人に1人くらいは、フェリチン高値(100ng/ml超くらい)の人がいます。
基礎疾患のない若い女性でも、身体のどこかに炎症がある事は珍しくないようです。
なので、はじめは鉄分が足りているかどうかは、フェリチン値を目安にするよりは、体感(参考:鉄分の重要性)を重視した方がよいと思います。
女性だと、冷え性、疲れやすい、イライラしやすいなどは、鉄不足あるある症状です。
身体に炎症があったとしても、たんぱく質と鉄分が満たされてくれば免疫の状態が良好になり、炎症が収まってくることはありえます。
栄養が満たされて、細胞たちが元気になってくれば、生理機能のバランスはおのずと整うという事です。
怖がらずに、鉄分摂取してみましょう。
フェリチン値どのくらいをめざす?
前稿で検討したこちらの図表を参考に考えます。
血清フェリチン値(大学生・大学院生 男性:36名、女性:108名)
健康な大学生/大学院生の男女間で、フェリチン値には大きな差があります。
しかし、フェリチンは男性にだけ必要な物質ではないので、女性が低いのは欠乏と考えられます。
ちなみに、男性でも女性と同じレベルに低い人がいますが、これは相当な栄養不良と考えられます。
一人暮らし男性の食生活は糖質過剰で栄養不足が多いのですが、大学生男子の食生活も想像以上にいけていないかもしれないです。
このことから、健康男性の殆どと同じくらいまでフェリチンを上げる事が目標値になると思います。
約1/3の男性は101ng/ml以上で、約半数の男性は71~80ng/ml以上です。
まずは80~100ng/ml以上をめざしてみましょう。
これは私も経験がありますが、月経のある女性がフェリチン100ng/ml達成するのは容易ではありません。
たんぱく質摂取が足りないと鉄剤の吸収力も落ちますので、あせって鉄をふやすより、たんぱく質重視の姿勢で取り組むのが早道と思います。
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